終幕「橋下劇場」
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終幕「橋下劇場」

「僕みたいな政治家が長くやる世の中は危険です」。大阪都構想をめぐる住民投票が否決され、政界からの引退を表明した橋下徹大阪市長。都構想否決で大阪は浮揚するのか。橋下なき大阪に未来はあるのか。あっけない幕切れとなった「橋下劇場」の深層を探る。

「僕みたいな政治家が長くやる世の中は危険です」。大阪都構想をめぐる住民投票が否決され、政界からの引退を表明した橋下徹大阪市長。都構想否決で大阪は浮揚するのか。橋下なき大阪に未来はあるのか。あっけない幕切れとなった「橋下劇場」の深層を探る。

橋下徹の野望が潰えた日

 5月17日は、「政治家」橋下徹の野望が初めて潰えた日になった。
会見を終え、会見場から出る大阪維新の会
代表の橋下徹大阪市長=18日(安元雄太撮影)
 タレント弁護士から転身し、大阪の復権をかけて突き進んだ7年半。ことあるごとにあまたの抵抗勢力と対峙し、自らの主張を押し通す強引さ。落としどころが見つかるまで完膚なきまで相手を叩きのめす弁護士的交渉術。時にあっさり非を認めて潔さをアピールするしたたかさ。それを巧みに使い分けた政治手法は、「独裁」とも恐れられたが、それゆえに彼が発するメッセージ、発信力は絶大だった。振り返れば、低迷著しい大阪がこれほど注目を集めたのはいつ以来だろうか。
 橋下氏が自らの政治生命を賭けて挑んだ大阪都構想が頓挫した。大阪市民に是非を問う住民投票という形で自らの政策が否決されたことは、「民意」を背景に政策を推し進めてきた政治家としての彼の存在価値を否定されたに等しい。「やっぱり、間違っていたんでしょうね」。記者会見で今後の進退を表明した橋下氏の主張は、なるほど筋が通っている。
 ただ、大阪を二分した住民投票の結果が、今後しばらくは軋轢となって禍根を残すことは想像に難くない。双方の陣営が「ノーサイド」と主張したところで、この溝を埋めるまでには相応の時間を要する。
 幸い、橋下氏が否決後すぐに市長の座を投げ出さなかったことは救いだったが、彼を信じて賛成票を投じた69万5千人もの民意はどうなるのか。なにより、橋下徹という人物に大阪の浮揚を託したその他大勢の期待は、このまま裏切られてしまうのか。橋下氏自ら「残り半年」と明言した政治生命は、こうした不安を抱く人々を納得させる必要がある。いや、まだ政治家を名乗るのであれば、何が何でも納得させなければならない。(iRONNA編集長、白岩賢太)

都構想で生じた亀裂

都構想実現せず

橋下徹大阪市長と有権者ら =5月17日、大阪市中央区(沢野貴信撮影)
 大阪市を解体し、5つの特別区を新設する「大阪都構想」の賛否を問う住民投票が17日投開票され、反対多数で否決された。都構想実現を主張してきた維新の党の橋下徹最高顧問(大阪市長)は市内のホテルで記者会見し、「(12月の)市長任期後は政治家はやりません。政治家は僕の人生で終了です」と述べ、政界引退を明言した。維新の江田憲司代表も同日夜、代表を辞任する意向を松野頼久幹事長に伝えた。松野氏は今後の対応などについて近く協議する考えを示した。
 橋下氏は、否決という投票結果について「大変重く受け止める。大阪都構想が受け入れられなかったのは(維新の主張が)間違っていたということになる」と述べた。維新は大阪府と市の二重行政を解消して経済成長を図り、住民に身近な行政を実現すると訴えたが、浸透しきれず市の存続が決まった。都構想には、安倍晋三首相や菅義偉官房長官が憲法改正に向けた維新との連携を視野に理解を示していた。しかし、橋下氏不在となる維新は今後、民主党など野党との連携に傾き、政権への対決姿勢を強める可能性もある。
 今回の住民投票で、自民、民主、公明、共産各党の地元組織が連携して必要性を否定。特別区には財源不足が生じ、住民サービスは維持できないと主張するなど反対運動を展開した。
 市選管によると、当日有権者数は210万4076人。投票率は66.83%で、平成23年の市長選の60.92%を5.91ポイント上回った。(産経新聞 2015年5月18日)
「改革なんて望んでない」「橋下さんしかいない」…大阪市民の声、真っ二つ(産経新聞 2015年5月18日)

強引なリーダー日本に必要

「橋ロス」乗り越えられるか

会見する大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長
 =17日午後、大阪市北区(門井聡撮影)
  これも「いさぎよい、見事な散り際」というべきなのだろうか。17日投開票され、わずかな差で反対が賛成を上回った「大阪都構想」をめぐる住民投票。「たたきつぶすと言って、こちらがたたきつぶされた」。深夜の記者会見であっさりと敗北を認め、自らの政治家生命に引導を渡すと宣言した橋下徹大阪市長(維新の党最高顧問、大阪維新の会代表)の“晴れ晴れとした笑顔”は、あまりに印象的だった。
 橋下氏らしいと言えば、橋下氏らしい。「民主主義は多数決だ」。話し合いをして、どうしても折り合いがつかない課題は、有権者の判断に委ねるしかない。首長として、政党のトップとして、常々口にしてきた。
 あまりにシンプルな民主主義論と、常に敵を設定して突破を図る手法は、あちこちで軋轢を生んだ。「僕みたいな政治家が長くやるのは危険。敵を作る政治家は、必要とされる時期にいるだけ。権力なんて使い捨てでいい」。会見で橋下氏は語った。たとえ大阪市の有権者を二分するような投票結果であろうとも、ある種原理主義的な理念で、妥協は許されないということなのだろう。政治家・橋下徹は自ら「賞味期限」をかぎとった。
 思えば橋下氏は、これまで何度「天下分け目の大戦」を仕掛け、選択を求めてきたことだろう。平成23年4月の統一地方選で維新が大躍進し、松井一郎大阪府知事(維新の党顧問、大阪維新の会幹事長)とともに戦った同年11月の「大阪ダブル選」で完勝。勢いをつけて24年の衆院選で日本維新の会(当時)に54議席をもたらし、全国区で旋風を起こした。しかし25年、戦時中の慰安婦をめぐる発言などで反感を買い、参院選では党勢拡大に失敗。堺市の大阪都参入への是非が争点となった堺市長選でも、維新候補が、橋下氏の知事時代の部下だった現職に敗れた。明らかに勢いにかげりが見え「橋下維新もこれまでか」とささやかれたが、昨年の衆院選で維新は公示前からわずか1議席減らしただけの41議席を獲得し、底力をみせつけた。
 この数年、大阪の政治・行政は、間違いなく橋下氏を中心に回っていた。いい意味でも悪い意味でも、全国から注目を浴びる発信力があった。好き嫌いは別として、大阪は今年12月の市長任期満了をもって、この大看板を失う。地元は一時的に「橋ロス」に覆われるかもしれない。だが、橋下氏の支持者も含めて沈んでいる場合ではない。この住民投票は、大阪都構想の終焉であると同時に、新たな改革のスタートとしなくてはならない。そうでなければ、この5年間があまりにも不毛だ。
 都構想ノーを勝ち取った自民や公明などは、橋下維新に対抗して「総論賛成、各論反対」の感があった市営地下鉄民営化など、大阪の成長に必要な諸施策を早急に議論し直し、よりよい案を示して実行に移すべきだろう。
 大阪という都市は、どこに活路を見いだし、再興していくのか。どうやって都市力を上げ、成長戦略を描いていくのか。決して「衰退の始まり」にしないことが、半ば無責任な形で大阪の、日本の政治から姿を消す橋下氏を見返す唯一の方策だ。(産経新 2015年5月18日)
橋下氏会見詳報(産経新聞 2015年5月18日)
維新動揺「存在意義が…」喪失感 「絶対やめさせん」宣言も(産経新聞 2015年5月18日)

橋下頼りのツケ

地域で賛否分かれる

 大阪都構想の賛否を問う住民投票では、大阪市内全24区のうち13区で反対が賛成を上回る一方、市中心部を含む11区では賛成が上回っており、地域によって賛否が分かれた形だ。
 中小零細企業が多い大正区では56.0%、住宅街が広がる平野区で55.3%、住吉区でも54.3%が反対に回った。町工場が多い地域や湾岸部、南部を中心に、市中心部と切り離され、自治体の枠組みが変わることに不安を覚えた住民が少なくなかったことがうかがえる。
 新「中央区」の官庁街として整備される方向で、都構想による変革の象徴ともなっていた西成区も反対が53.2%だった。
 これに対し賛成が多かったのは、オフィス街や繁華街のキタを抱える北区で、59.0%に達した。
 キタに近い福島区も賛成が55.6%と上回り、多くの企業が集中する中央区も賛成が54.1%を占めた。市中心部で都構想実現を求める人たちが多かったとみられる。(産経新聞 2015年5月18日)

東京人には分からない地域格差

高齢者票が影響か

「都構想」住民投票=5月17日
午前、大阪市(山田哲司撮影)
 大阪都構想の賛否を問う住民投票の投開票が行われた17日、産経新聞社は、大阪市内64カ所の投票所で有権者の動向を探る出口調査を実施した。(中略)
 賛否を性別でみると、男性が賛成55・5%と上回る一方、女性は反対が52・0%と賛否が逆転。年代別では、20~50代で賛成が5割を超えたものの、60代は51・8%が反対、70歳以上は3分の2に当たる63・8%が反対に回った。
 都構想が実現すれば、市独自の優待乗車証「敬老パス」などが切られてしまう可能性があっただけに、高齢者福祉などへの不安感が投影された可能性もある。
 反対票を投じた人が最も重視した項目は「大阪都構想のメリットが明らかかどうか」で、次いで「住民サービスが良くなるか悪くなるか」だった。都構想が否決された背景には、都構想の説明がまだ不十分と感じている人や身近な行政サービスが変わることに不安を覚えている人が少なからずいたことをうかがわせる。(産経新聞 2015年5月18日)
シルバーデモクラシーに敗れた大阪都構想に、それでも私は希望の灯を見たい(おときた駿公式サイト 2015年5月17日)
橋下市長の敗因が「シルバーデモクラシー」ではない件について。(中嶋よしふみ「シェアーズカフェのブログ」 2015年5月18日)

ユーザー投稿

橋下徹はなぜ小泉純一郎になれなかったのか

 筆者は以前、橋下徹という人物に焦点を当てた連載を産経新聞紙上でやったことがある。大阪府知事時代、まだ政治家デビューから半年余りだったころ、彼自身や彼と深い関わりのある人物を何人も取材し、連載記事にまとめた。
 母子家庭で育った彼が、成功をつかむまでの道のりは決して平坦ではなかった。貧しいながらも人知れず努力して大阪トップ高に入り、大学進学後には司法試験にも合格した。弁護士からタレント、政治家へと転身しながら、カネも名誉も権力も手中に収めた人生は、まさに絵に描いたようなサクセスストーリーである。その自信の表れが、自らの政治理念にも色濃く反映され、彼のあまりに強すぎるメッセージは閉塞感が漂う大阪人の心をも瞬く間に掴んだ。
2005年8月、総選挙公示日に第一声をあげる小泉純一郎・自民党総裁(左)と、4月27日の住民投票告示日に演説をする大阪維新の会の橋下徹代表
 単純明快なワンフレーズで有権者に訴えかけ、自分に反発する相手を抵抗勢力に見立てて徹底的に追い詰める政治手法は、周囲の反対を押し切って郵政民営化を実現した小泉純一郎元首相のそれと瓜二つである。にもかかわらず、同じポピュリズム政治を踏襲しながら、なぜ橋下徹は小泉純一郎になれなかったのか。
 一つは、橋下氏の主張した都構想のメリットが分かりにくかったことが挙げられる。「二重行政の解消」というフレーズは、一見耳障りが良いように思えるが、具体的なメリットがお得意のワンフレーズでは伝わりきらなかった。むしろ、反対派が主張した住民サービスの低下というデメリットは、敬老パスの廃止などより具体的であり、市民にとって政策の是非を身近に感じさせ、浸透していったとみるのが自然であろう。
 そして、筆者が最も大きな要因として考えるのは、政治家として増長し、肥大化し続ける橋下氏に、ある種の「恐怖感」を有権者が抱きつつあった、という点である。「このまま突っ走っても、大丈夫なんやろか」。その恐怖にも似た感情は、若者よりもむしろ高齢者の方に顕著に表れた。事実、報道各社の出口調査の結果をみると、60代、70代以上の有権者の半数以上が反対票を投じている。
 「シルバーデモクラシー」と揶揄する向きもあるが、こうした不安を払拭できなったことが橋下氏の致命的敗因の一つになったことは言うまでもない。小泉元首相との違いは、高齢者からの支持を得られなかった点で大きく異なる。
 橋下氏が訴えた「改革」は、若者にはすんなり受け入れられても、お年寄りにはいつしか「破壊」という言葉に置き換えられてしまった。言うなれば7年半という歳月は、橋下流の限界を示す分岐点だったのかもしれない。
 「僕みたいな政治家が長くやる世の中は危険です。敵をつくる政治家は、必要とされる時期にいるだけ。権力なんて使い捨てでいい」。政界引退の理由をサバサバ述べた橋下氏だが、自らも政治家としての限界を感じた瞬間だった。「敵をつくる政治家が世の中にずっといるのは害だ。それが健全な民主主義というものです」
 大阪はこれからポスト橋下をめぐる動きが本格化する。橋下徹という「個」が突出したリーダーに代わる存在はいるのか。調和を重んじるリーダーで衰退する大阪が変わるのか。大阪にとって、本当の意味での正念場がこれから待っている。(iRONNA編集長、白岩賢太)
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