「アイヌ論争」とヘイトスピーチ
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「アイヌ論争」とヘイトスピーチ

「アイヌ民族なんてもういない」。元札幌市議のツイートに端を発した「アイヌ論争」。アイヌ民族の存在に否定的な漫画家、小林よしのり氏と、北海道出身の精神科医、香山リカ氏の対談は、アイヌとヘイトスピーチをめぐる論争の本質をつく内容である。両氏の意見を通して、この問題を改めて考えたい。

「アイヌ民族なんてもういない」。元札幌市議のツイートに端を発した「アイヌ論争」。アイヌ民族の存在に否定的な漫画家、小林よしのり氏と、北海道出身の精神科医、香山リカ氏の対談は、アイヌとヘイトスピーチをめぐる論争の本質をつく内容である。両氏の意見を通して、この問題を改めて考えたい。

産経的感覚に対する挑戦

 iRONNAの読者の皆さん、初めまして。今回から特別編集長として発信を始める月刊『創』編集長・篠田です。私自身は産経新聞のスタンスとは違う立場で、まさか産経デジタルでレギュラーっぽい仕事をすることになるとは思っていませんでした。これまではどちらかと言えば産経と同じ立場の特別編集長が多かったと思うのですが、私に依頼があったのは、いろいろな立場の論者を加えたいという、まさに「イロンナ」の方針によるものなのでしょう。私自身も、その考えは悪くないと思って引き受けたのですが、さて実際に仕事を始めてみると、いやあ簡単ではないというのが率直な感想です。
 一番大きな問題は、私の提示したという形のテーマに、編集部が解説やいろいろな記事をつけていって論争っぽいものに仕上げていくのですが、その編集上の発想が私から見れば産経的感覚で、いわばこれは私とiRONNA 編集部との合作なのですね。『正論』や『WiLL』などのように特別編集長と産経のスタンスに共通性がある場合は、それはそう大変な作業ではないでしょうが、違いがある場合は簡単ではありません。これは続けていくのは大変かもしれないなというのが現時点での印象です。
 私は東京新聞に連載をもう20年近く書き、「WEBRONZA」に時々、そして「Yahoo!ニュース個人」ブログにレギュラーで書いています。ヤフーブログの場合は、かなり自由に仕事をさせてもらっており、昨年は十万単位のアクセス数を何度も得ているのでなかなか良い関係だと思っています。さてそしてこの産経デジタルで果たしてどんなことができるのか。1年以内に私が姿を消していたら、やはりそうなったか、と思って下さい。

論客同士が真っ向対決

 と、前置きを書いたうえで今回のテーマです。アイヌとヘイトスピーチをめぐる漫画家・小林よしのりさんと精神科医・香山リカさんの論争です。最初のきっかけは月刊『創』3月号の対決対談でしたが、双方の応酬はその後ツイッターなどを通じて激しく行われています。その経緯が多少わかるのは、例えば日刊SPA!で、香山さんのかなりの書き込みと、それに対する小林さんの反論、さらに香山さんの見解が書かれています(http://nikkan-spa.jp/828526)。
 小林さん、香山さん、それぞれに支持する人がいて、この問題、結構大きな議論になっているのですが、今回はそのおおもととなった『創』3月号での対談を一部転載しましょう。やはり両者が直接顔を合わせて対決するというのは貴重なことだし、論点がわかりやすいといえます。ただ、その対談をネットに全文公開するわけにはいきません。実は最近、そのふたりの対談とその後の論争をまとめたブックレット『「アイヌ論争」とヘイトスピーチ』を創出版から刊行したばかりだからです。
 今回は、ブックレットでいうとその第1章を公開します。論争の概要はこれだけでもある程度わかります。対談に至る経緯も、その対談の冒頭である程度語られていますが、ここで少し整理しておきましょう。

 小林さんが「ゴーマニズム宣言」でアイヌを取り上げたのは2008年のことでした。同年6月に国会で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が全会一致で可決されたのですが、その決議に対して真っ向からの異論を掲げたのが小林さんでした。
 北海道を取材して書かれたそのアイヌ論は『わしズム 日本国民としてのアイヌ』(小学館)や『ゴーマニズム宣言NEO2 日本のタブー』(小学館)にまとめられました。既に『戦争論』などで保守論壇に大きな影響力を及ぼしていた小林さんのアイヌ論は、その後もいろいろなところで論拠とされてきました。
 そうした経緯が以前あったところへ、昨年8月半ばに、札幌の金子快之市議(当時)のアイヌに関するツイッター発言があり、11月には東京のヘイトスピーチデモでアイヌへの攻撃が行われるといった騒動に発展しました。アイヌの特権、利権を許すなというヘイトスピーチは、在日朝鮮人などに対して投げつけられてきたのと同じ論理ですが、そのヘイトスピーチを行う側が論拠としたひとつが、小林さんがこれまで著書で展開してきた「アイヌ民族は存在しない」という主張でした。つまりアイヌの人たちは長い間の同化政策によって民族としては存在しなくなっているという考えです。
 自らが北海道出身である香山さんは、こうした状況に関心を持ち、ツイッターなどでも発言するようになりました。一方で小林さんは11月13日のブログで「純粋アイヌはいない。果たして『アイヌ民族』というほどの集団がいるのか?」と書き、「この問いに、香山リカ、中島岳志は答えなさい」と名指しで呼びかけを行ったのです。
 香山さんとしても、ヘイトスピーチを行っている人たちが小林さんの主張を論拠にしているために、正面から小林さんと対決しないといけないと考えたようです。そして、それを受ける形で実現したのが、今年1月15日に行われた小林vs香山対決対談でした。

ついに激突!

対談秘話

 対談の中でも触れられているように、小林さん自身は、ヘイトスピーチやネット右翼のアイヌへの差別を容認しているわけではない、と言明しています。ただ、この時期にアイヌをめぐるこういう議論が出てきた背景には、この何年か日本を覆う民族排外主義やナショナリズムの影響を抜きには語れないでしょう。したがって、アイヌをめぐるやや専門的と思われがちなこの議論は、民族やナショナリズムといった、今の日本を揺さぶる大きな問題と関わっているのです。
 その小林さんに論戦を挑むというのは、香山さんにとっても大勝負だったのでしょう。
 ブックレットの後書きで「小林よしのり氏との対談は、私にとってはとても大きなできごとであった」と書いています。小林さんは、これまで保守論壇に大きな影響力を発揮してきた人ですし、香山さんはこの何年か、リベラル派として社会的発言を数々してきた人で、このふたりが真っ向から対決したこの論争は、アイヌをめぐる問題に限らず、言論戦の方法論を含めて多くの示唆を与えてくれます。
 ということで、双方の論争の発端となった対談の一定部分を転載しました。この対談は予定時間をオーバーして3時間超に及んだもので、緊迫した真剣勝負でした。

アイヌの存在とは

先住民と認める国会決議

 衆参両院は2008年6月6日の本会議で、アイヌ民族を先住民族と認め、地位向上などに向け総合的な施策に取り組むことを政府に求める決議を全会一致で採択した。衆参事務局によると、アイヌに関する国会決議は初めて。
 町村信孝官房長官(当時)は衆参本会議で、アイヌに関し「先住民族」との認識を政府として初めて表明。午後の記者会見で「独自の言語、文化、宗教があり、素直に言えば先住民族であると政府として考えているということだ」と述べ、アイヌの位置付けや施策を議論する有識者懇談会の設置を盛り込んだ談話を発表した。
幻想的なアイヌ文化の踊り
 国会決議は「わが国の近代化の過程で、多数のアイヌが差別され、貧窮を余儀なくされたという歴史的事実を、厳粛に受け止めなければならない」と明記。政府に対し、アイヌを独自の言語、宗教や文化を有する先住民族と認めることや、有識者の意見を聴きながらアイヌ政策をさらに推進し、総合的な施策の確立に取り組むことを求めた。超党派の北海道関係国会議員でつくる「アイヌ民族の権利確立を考える議員の会」は、昨年の国連宣言が日本も賛成して採択されたことを重視。先月から断続的に世話人会を開き、決議をまとめた。
 今回の決議などを受け、アイヌ関係者団体の代表者らは同日、国会内で記者会見。北海道ウタリ協会の加藤忠理事長は「感謝の気持ちでいっぱいだ。アイヌとして誇りを持って生きられる社会を実現したい」と強調。秋辺得平副理事長も「先祖たちの苦難を良い方向で受け継いでいく。アイヌの歴史の中でもこれほど重要な一ページはない」と感慨深げに語った。(産経新聞 2008年6月7日)

論争の発端となったツイート

   

 元札幌市議の金子快之氏が2014年8月、短文投稿サイト「ツイッター」に「アイヌ民族なんて、いまはもういない」と書き込んで物議を醸した。民族差別への批判はその後も広がり、同年9月には所属会派の自民党札幌支部連から除名処分を受けた。自民党は08年に衆参両院が決定したアイヌを先住民族と認める国会決議に賛同しており、金子氏の発言は党議違反に該当すると判断した。札幌市議会も金子氏に対する議員辞職勧告決議を賛成多数で可決したが、決議後の会見で金子氏は「発言を撤回する考えはない。タブーを恐れず発信を続ける」と主張。今年4月の札幌市議選に出馬するも落選した。

いま明かす私の思い

アイヌへの「暴力」である

ヘイトスピーチを許すな

共存を夢見た男

「アイヌ論争」とヘイトスピーチ

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