「又吉文学」にみる芥川賞の価値
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「又吉文学」にみる芥川賞の価値

お笑い芸人としては初の受賞となる芥川賞に、又吉直樹さんのデビュー作「火花」が選ばれた。日本の純文学界にとって久々の明るい話題となったが、一方で不振が続く出版業界の「思惑」を勘繰る向きもある。文学性と話題性は本当に両立するのか。芥川賞の「価値」と出版不況について考えたい。

お笑い芸人としては初の受賞となる芥川賞に、又吉直樹さんのデビュー作「火花」が選ばれた。日本の純文学界にとって久々の明るい話題となったが、一方で不振が続く出版業界の「思惑」を勘繰る向きもある。文学性と話題性は本当に両立するのか。芥川賞の「価値」と出版不況について考えたい。

時代を映す鏡

古舘氏の発言が物議

 ピース又吉「芥川賞」への古舘氏“皮肉”が物議 お笑いコンビ「ピース」又吉直樹(35)の芥川賞受賞をめぐり、テレビ朝日系「報道ステーション」での古舘伊知郎キャスター(60)の発言が物議を醸している。16日放送の同番組では又吉の著書「火花」の芥川賞受賞を報じたが、ニュースVTR明けに古舘キャスターは「みんなすごいなとは思うんですけど、それとは別に芥川賞と本屋大賞の区分けがなくなった気がするんですけどね」と発言した。(東スポWeb 2015.07.17)

「話題性」は無視できない

日本文学界の現実

時代を切り取った文学賞

 芥川賞は純文学の短編や中編を対象にした新人賞なのに対し、直木賞は娯楽性の強い小説から選ばれ、中堅作家も対象になる。
作家、菊池寛
 上半期(12月1日~5月31日)と下半期(6月1日~11月30日)に発表された中から5~7編の候補作を選出。1月と7月の選考委員会で受賞が決まる。出版社主催の多くの新人賞とは違い、公募ではない。
 両賞は昭和10年、総合雑誌「文芸春秋」の創刊者で作家の菊池寛(1888~1948年)によって創設された。国民作家の芥川龍之介と大衆小説作家、直木三十五(さんじゅうご)の業績を記念して始まったが、草創期は「一出版社の企画にすぎない」と周囲の目は冷ややかだった。第1回の受賞者発表について、菊池寛がコラムで《一行も書いて呉(く)れない新聞社があったのには、憤慨した》とぼやいたのは有名な話だ。
 一文学賞から社会的な注目を集める賞への転換点は昭和31年。当時、23歳で一橋大生だった石原慎太郎さんが書いた芥川賞受賞作「太陽の季節」の内容への賛否をめぐる議論が沸騰したからだ。作中の登場人物のような無軌道な若者を指す“太陽族”は流行語になり、著者の石原さんをまねた“慎太郎刈り”が街にあふれた。賞の知名度は上がり、報道も過熱。以後、村上龍さんの「限りなく透明に近いブルー」(芥川賞、51年)、浅田次郎さんの「鉄道員(ぽっぽや)」(直木賞、平成9年)などミリオンセラーも生んだ。平成16年の第130回では当時19歳の綿矢りささんと20歳の金原ひとみさんが芥川賞を史上最年少で受賞=写真右。受賞作2作を掲載した「文芸春秋」は、同誌の最多発行部数記録を塗り替えて話題になった。(中略)日本を代表する文学賞だけに反発も大きい。ノーベル文学賞も期待される村上春樹さんが2度、芥川賞候補になりながら受賞を逃した例などもあり、「適切な時期に実力のある作家に与えられたのか疑問」(出版関係者)という批判がついて回ったのも事実だ。(後略)

 日本文学振興会によると各期の受賞作は、芥川賞が約100作品、直木賞が250~300作品の中から選ばれる。予備選考委員に委嘱された文芸春秋の編集者(各賞につき約20人)が、約4カ月かけて最終候補5~7作品を決定。東京・築地の料亭「新喜楽」で行われる選考委員会では選考委員が各候補作に○△×の評価を付けて投票する。過半数の支持が集まれば受賞。投票は各作品について議論を交わしながら2、3回行われるため、選考委員会が3時間を超えることも珍しくない。現在の芥川賞選考委員は、小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、高樹のぶ子、堀江敏幸、宮本輝、村上龍、山田詠美の各氏。

まったく売れない

制度疲労…不可避の業界再編

 出版取り次ぎ4位、栗田出版販売の経営破綻は、書籍と雑誌販売が落ち込む近年の出版不況を象徴する出来事といえる。
 出版取り次ぎ会社は、書籍や雑誌を出版社から仕入れて全国の書店に卸す、いわば「本の問屋」だ。書店が自由に返品できる委託販売制度のもとで、全国に一斉配送する仕組みを実現。日本出版販売(日販)とトーハンの2社が中心となって出版界の発展を支えてきた。
最終号となった「G2」19号
(右)とそれ以前の号。米誌
「ニューヨーカー」をイメージ
し、表紙から文字を消した
 そんな慣行を揺さぶったのが、娯楽の多様化や少子化などが原因とされる構造的な出版不況だ。出版科学研究所によると、出版物の推定販売金額は平成8年をピークに減少し、昨年は前年比4.5%減の1兆6065億円。落ち込み幅は昭和25年の統計開始以来、最大となった。本の返品率は40%近くで高止まりし、裁断などの費用負担も業界にのしかかる。インターネット書店最大手、アマゾンの台頭もあり、全国の新刊書店数は平成12年以降右肩下がりを続け、26年には3分の2以下の約1万4千店にまで減った(アルメディア調べ)。
 取り次ぎでも業界3位の大阪屋が昨年、楽天などの支援を受ける事態となり、出版関係者からは「戦後の出版流通システムは制度疲労を起こしている」と、変革を求める声も出ている。出版業界に詳しいジャーナリストの山田順さんは「出版不況で書店は大型店を残して急減している。小規模の書店しか顧客を持たない取り次ぎから淘汰(とうた)される状況だ。出版社、書店も含めた業界全体の再編は避けられないだろう」と予測している。

出版の時代の終焉

花田紀凱の天下の暴論

 週刊誌(雑誌)は販売と広告で成り立っている。部数が伸び、入る広告が増えれば儲(もう)かるという仕組みだ。
 が、この不況で、雑誌に入る広告は激減している。今まで2誌に出していたスポンサーは1誌に、3誌に出していたスポンサーは2誌にしぼる。
 かつて号当たり3億円の広告が入っていた雑誌界の王者『文芸春秋』は広告索引というのを掲載しているから広告量が一目瞭然。最盛期の3分の1以下だろう。
 週刊各誌も部数は減るわ、広告は減るわのダブルパンチ。しかも広告の質が落ちている。
 業界用語で表紙の裏を表2、裏表紙を表4、裏表紙の内側を表3といい、かつては各誌、ナショナル・スポンサー(誰もが名前を知っている有名企業)の定席だった。
 ところが週刊各誌の合併号を見ても表2、表3、表4をすべてナショナル・スポンサーで埋めている週刊誌は皆無。美容整形や通販、自社広(自分の社の出版物の広告だから、むろんタダ)で、息をついている形だ。
 雑誌広告全体の売り上げがネット広告の売り上げに抜かれている時代だから致し方ないが、スポンサー各位、雑誌の持つパワーをもう少し評価してほしい。(産経新聞、2015.05.09)

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