「トランス脂肪酸」恐るるに足らず

「トランス脂肪酸」恐るるに足らず

最近、巷で話題になっている「トランス脂肪酸」。米国では以前から表示義務や添加規制をしてきたが、2018年までに加工食品への使用が全面禁止される。日本では含有量の表示義務すらないこの脂ばかりが悪者にされるのは何故なのか。

大江紀洋の視線

 「マーガリンをたくさん使っている○○製のパンは避けるべき」などとネット上でトランス脂肪酸が大きな騒ぎになっています。
 きっかけは、2015年6月16日に、米国食品医薬品局 (FDA)が「2018年以降、トランス脂肪酸の発生源となる油の食品への使用を原則禁止する」と発表したことです。日本は特に規制がなく、含有量の表示義務もないことから、心配する声があがっているのです。
 最近ではついに、「子どもの脳が蝕まれる トランス脂肪酸」などと題した記事まで登場しました。しかし、トランス脂肪酸をめぐる報道は、原典をきちんと当たったのか首をかしげたくなる記事が目立ちます。Wedgeでは、信頼性の高いジャーナリストに執筆をお願いしているので、読者の方々には基礎知識をつけた上で流言飛語に接してほしいと願います。
 医師・ジャーナリストの村中璃子さんは、米FDAが「心疾患以外の、がんや糖尿病、アレルギーや認知症など他の病気とトランス脂肪酸との関連性については明言を退け、はっきりと関連性が認められるのは心疾患のみ」という判断を下していることを指摘しています。さらに、これまでWHO(世界保健機関)とFAO(国際食糧農業機関)が「トランス脂肪酸は1日の総摂取カロリー量の1%未満」としてきた国際基準値に対して、FDAが「安全な基準値は無い」=「もっと厳しい基準が必要」としたことに注目しています(「トランス脂肪酸は気にしなくていい」は本当か」)。
 科学ジャーナリストの松永和紀さんは、トランス脂肪酸は日本人にとっても、摂取するメリットがなく、量を減らした方がいい物質であることは確かだが、現状の日本人大多数のトランス脂肪酸摂取量は少なく、日本のマーガリン類は、トランス脂肪酸の含有量が大きく低減されてきたことを指摘しています。「トランス脂肪酸のみに注目するのではなく、バランスよく適度な量を食べる食生活に気を配る方が、トランス脂肪酸の低減だけでなく、飽和脂肪酸の摂り過ぎ防止もでき、肥満による生活習慣病、がんリスクの上昇なども防ぐことができる」との提言は、私たちが把握しておきたいもっともベーシックな専門家の意見でしょう(「米国のトランス脂肪酸“禁止” 日本が振り回される必要はない」)。
 この騒動には、米国の規制に大きな影響を与えていると思われる業界団体のロビー力や、エビデンスとされているさまざまな研究のトランス脂肪酸摂取量が怪しげな自己申告に基づいていること、あるいは、じゃあバターは安全なのか? というテーマについては、米FDAと英ケンブリッジ大グループでまったく見解が異なっていることなど、興味深い逸話がたくさんあります。ぜひ広い視野をもって情報に接していただければと思います。(Wedge編集長)

マーガリンは食べたくない

  • 「トランス脂肪酸は気にしなくていい」は本当か

    「トランス脂肪酸は気にしなくていい」は本当か

    米国でトランス脂肪酸禁止が決定した。市場には「百害あって一利なし」のものが出回っているが、なぜトランス脂肪酸が恰好の餌食になるのか。医師でジャーナリストの村中璃子が明らかにする。

摂取少ない日本

1 2 3 4 5 6 7  0.05g/100g
国内に流通している食品のトランス脂肪酸含有量 *1 ビスケット類には、ビスケット、クッキー、クラッカー、パイ、半生ケーキが含まれる。 *2 ケーキ・ペストリー類には、シュークリーム、スポンジケーキ、ドーナツが含まれる。 *3 マヨネーズには、サラダクリーミードレッシング及びマヨネーズタイプが含まれる。 *4 牛肉(内臓)には、心臓、肝臓、はらみ(横隔膜)、ミノ(第一胃)が含まれる。 *5 牛乳等には、普通牛乳、濃厚牛乳、低脂肪牛乳が含まれる。 *6 クリーム類には、クリーム、乳等を主原料とする食品、コーヒー用液状クリーミング、クリーミングパウダー、植物油脂クリーミング食品が含まれる。 *7 抽出油中 0.05g/100g(定量下限)未満であった。(「トランス脂肪酸」ファクトシート(内閣府食品安全委員会、PDF)より)

 米食品医薬品局(FDA)は6月、トランス脂肪酸の原因となる油脂の使用を3年後に原則禁止することを決めた。大量に摂取すると心臓疾患などのリスクを高めるとされるトランス脂肪酸の削減が目的だ。トランス脂肪酸をめぐっては、世界保健機関(WHO)が10年以上前に減らすよう勧告しており、日本の食品メーカーでも削減対策が進んでいる。
 トランス脂肪酸は、不飽和脂肪酸と呼ばれる脂質の一種。植物油を加工して作るマーガリンやショートニング、それらを使ったパンやクッキー、スナック菓子、揚げ物などに多く含まれる。大量に摂取すると心筋梗塞など心血管疾患のリスクを高めるとされる。
 2000年から02年の米国人1人当たりの1日摂取量は5.6グラム、総エネルギーの2.2%に上り、WHOは03年、1日当たりの摂取量を総エネルギーの1%未満に抑えるよう勧告した。FDAは06年から加工食品のトランス脂肪酸の含有量表示を義務付けるなどの対策に乗り出し、消費量は03年から12年の間に約78%減少した。今回の決定はさらに削減を進めるためで、FDAは「冠動脈疾患を減らし、致命的な心臓病を年数千件減らせる」としている。
トランス脂肪酸の1人あたりの
摂取量
「トランス脂肪酸」ファク
トシート(内閣府食品安全委員会、
PDF)
より)
 海外でトランス脂肪酸の摂取削減に向けた動きが広がる中、日本では食品安全委員会が平成18年度に国内で流通する食品中の含有量調査や1人当たりの摂取量調査を実施。その結果、日本人の摂取量は1日平均0.7グラムで、総エネルギーの約0.3%とWHOの目標を大きく下回っていた。このため、食安委は「通常の食生活では健康への影響は小さい」としている。
 また、消費者庁は21年からトランス脂肪酸の摂取量や健康影響に関する情報収集を実施。23年に食品メーカーなどに対し、トランス脂肪酸に関する情報を自主的に開示するよう要請した。(中略)
 ただ、農林水産省の調査では、トランス脂肪酸を減らした食品の中には、飽和脂肪酸が増えたものがあった。飽和脂肪酸はバターや脂身の多いバラ肉などに多く含まれ、こちらも取り過ぎると動脈硬化のリスクが高まることが指摘されている。(中略)
 トランス脂肪酸には、牛肉や乳製品などの食品に含まれているものと、大豆やなたねなどの植物油を加工・精製する工程でできるものがある。
 油脂の加工・精製は、液体の植物油をマーガリンのような固形にしたり、植物由来の臭みなどを取り除いたりするために行われる。これらの油を使ったパンやドーナツなどの揚げ物などにも含まれる。(後略)(2015.6.29 産経新聞)

「数千人の命が救われる」

  • 米国のトランス脂肪酸“禁止” 日本が振り回される必要はない

    米国のトランス脂肪酸“禁止” 日本が振り回される必要はない

    「米、トランス脂肪酸を含む食品添加物の3年以内の全廃を通達」。こんなふうに大手メディアに報道された後、さっそくネットメディアでも「○○は危ない」などの情報があふれ始めたが、科学ジャーナリストの松永和紀は間違いが目立つと指摘する。

なぜそこまで警戒されるのか?

 トランス脂肪酸については、デンマーク、スイス、オーストリアでは含有量の制限を設け、米国やカナダ、フランス、韓国、台湾では表示が義務。米ニューヨーク市にいたっては飲食店に対し、実質的な使用全面禁止だ。
 なぜ、そこまで警戒されているのか。
 トランス脂肪酸がもたらす健康への悪影響について、国立健康・栄養研究所・基礎栄養部の江崎治部長は「摂り過ぎるとLDL(悪玉)コレステロールが増加し、HDL(善玉)コレステロールが減少する。また、血管の動脈硬化を進める慢性炎症との関連も指摘されています」と説明する。そのため過剰摂取は、心筋梗塞のような冠動脈性心疾患、肥満、アレルギー性疾患などの発症が増加するといわれている。
 トランス脂肪酸とは、ある特殊な分子構造をした油脂成分の一種で、天然に食品中に含まれているものと油脂を加工・精製する過程で副産物としてできるものがある。数多くの種類があるので、厳密にはどのトランス脂肪酸が人体に有害なのか明らかではない。
 江崎部長は「天然の食品では牛や羊などの動物の胃の中の微生物の働きで作られるので、牛肉や羊肉、牛乳や乳製品に微量に含まれる。ただし、動物由来のトランス脂肪酸は人体に悪影響がなく、逆に牛乳などは摂った方が心筋梗塞の発症リスクが減ることが分かっている」と説明する。過剰摂取が心配なのは、油脂の加工・精製過程でできる工業由来のトランス脂肪酸の方だ。
■同食品でも含有に差 食品の含有量は別表のようにショートニング(食用油脂)がダントツに多いので、ファストフードや菓子類などの揚げ物系に多く含まれる。が、近年は食品メーカーが含有量を抑える努力をしてきているので、同じ食品でも個別の商品によって含有量にかなり開きがあるのが実情だ。「日本人で最も懸念される若年女性の食生活を調べた調査では、1日当たり平均摂取量は0・5~1・5グラムの間で、一部は3グラム超える人もいる。心疾患の多い米国の成人は平均5・8グラムなので、確かに日本でも多く摂取している人がいる」(江崎部長)。加工食品のトランス脂肪酸は少なければ少ないほど体にいい。表示が促進されれば、それだけ健康管理に役立つはずだ。江崎部長は「日本では依然として糖尿病と脳卒中対策が最重要課題。カロリーと塩分の表示確認が最も大切なのは変わりない」と念をおす。(2011.5.18 夕刊フジ)
■すぐにわかるトランス脂肪酸(農林水産省ホームページ)■「トランス脂肪酸」ファクトシート(内閣府食品安全委員会、PDF)
■トランス脂肪酸がパン類等に含まれる理由(山崎製パン)

成分表示の義務なし

  • 日本は米国からトランス脂肪酸規制作成のプロセスを学ぶべき

    日本は米国からトランス脂肪酸規制作成のプロセスを学ぶべき

    日本ではトランス脂肪酸に関する成分表示義務さえもないが、それはあまりにも野放しだ。中泉拓也・関東学院大学経済学部教授は広く客観的な議論によって政策を改善する米国の規制作成プロセスに学べと提案する。

「人造バター」今は昔

 バター風味マーガリンは好調だが、実はマーガリン類の生産自体はじわじわと縮小している。マーガリン工業会のデータによれば、1993年に7万4000トンあったものが20年経過して、5万3000トンまで減っている。なかでも顕著なのが学校給食だ。給食のパンといえばマーガリンだったのに、トランス脂肪酸問題の影響を受け、この20年で半分近くになっているのだ。
 ただ、マーガリン業界もなにもしていないわけではない。そもそも日本人は欧米人ほどトランス脂肪酸を摂取していないというデータを掲げて、「なんでも摂り過ぎたら毒でしょ、要は程度の問題ですよ」という啓発にいそんしんだり、「実はファットスプレッドはバターよりもヘルシーだ」というプロモーションも仕掛けるなど、復活の道を模索している。そこに現れたのが、「バター風味マーガリン」というわけだ。
なぜ“バターみたいなマーガリン”が増えているのか ITmediaビジネス 2015.2.24

されど万病の元?

  • 摂り過ぎるとアレルギーや大腸がんやうつ病の原因になる油も

    摂り過ぎるとアレルギーや大腸がんやうつ病の原因になる油も

    油って、太るイメージしかなかったのですが、体にいい油があると聞きました。50代なのに30代にしか見えないドクター・南雲吉則先生が回答する。

  • 健康目的の食品課税は導入すべきか

    健康目的の食品課税は導入すべきか

    海外では大量に摂取すると健康に悪影響がある食品に課税する動きが相次いでいる。日本でもメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)などになる人を減らすために、国民の健康維持を目的にした食品への課税を導入すべきなのか。

  • 肉に含まれる飽和脂肪酸 摂取多い男性は精子濃度低いと判明

    肉に含まれる飽和脂肪酸 摂取多い男性は精子濃度低いと判明

    食事中の脂肪の質を比較・検討すると、精子の数と食事中の飽和脂肪酸の量に明らかな関連性が見いだされた。

「トランス脂肪酸」恐るるに足らず

日本でもトランス脂肪酸を規制すべきだと思いますか?

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