「郵政上場」の闇とカラクリ
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「郵政上場」の闇とカラクリ

小泉政権下の郵政解散から10年余、郵政3社が出来過ぎともいえる滑り出しで念願の新規上場を果たした。しかしこの上場、取材すればするほど、よく比較されるNTTやJRとも違う“異臭”がするのだ。

小泉政権下の郵政解散から10年余、郵政3社が出来過ぎともいえる滑り出しで念願の新規上場を果たした。しかしこの上場、取材すればするほど、よく比較されるNTTやJRとも違う“異臭”がするのだ。

大江紀洋の視線

 郵政3社上場から1カ月。「小池に飛び込むクジラ」と言われたが、現在のところ株価は好調に推移。関係者はほっと胸をなでおろしていることだろう。
 しかしこの上場、取材すればするほど、奇妙キテレツな上場である。よく比較されるNTTやJRとも違う“異臭”がするのだ。高橋洋一氏須田慎一郎氏も、郵政の今後については否定的な見解である。明るい未来を語る専門家はついぞ見かけないのに、株価だけは今のところ好調というのは、いったいどういうことだろうか。
 事の発端は2013年初めに安倍政権が復興財源として郵政上場4兆円を当て込んだことだ。巨大クジラを安定消化させるために、配当性向が高く設定。上場を3回に分割し、6年をかけることで、少なくとも6年間は高い配当利回りが維持されるという“期待”を定着させた。「暗黙の政府保証と約100倍の金利がつく6年物の定期預金」。これでゆうちょ銀に預けるような、地方の高齢者を中心とする庶民を釣ったのが実態だ。
 詳しくは記事「ゆうちょ株の実態は6年限定のおまけつき預金」をご覧いただきたいが、無理スジにも見える自社株買いスキームまで用いた、国主導の「上場ゴール」ともいうべき上場劇の裏側で、小泉純一郎氏があれほど騒いだ「郵政改革」はどこかに吹っ飛んでしまっている。何事もツケを回せば後がしんどいのだが。(Wedge編集長)

国主導の「上場ゴール」

演出された上昇相場

定額郵貯の代わりにボロ株!?

郵政グループ、3社長語る

日本郵政・西室泰三社長「世界の物流企業に変える」 
 ――上場後は業績が市場から厳しくチェックされる。一方で、ユニバーサル(全国一律)サービスは義務付けられる。サービスを維持するには何が必要か
 「ユニバーサルサービスは法的に決まっている。今までユニバーサルサービスというと、地方の金融サービスばかりに焦点が当たっていたが、都市部の構造が変わりつつある中で、経営の効率向上もやるつもりだし、サービスの中身を高度化することもできるだろう」
 ――株式を100%保有する日本郵便のグループ内での位置づけはどう変わるのか
 「日本郵便は世界の物流企業の一角を占める位置づけに変えていくのが基本的な方向だ。一方、ユニバーサルサービスは尊重しないといけない。経済的合理的に運用できるように改良して、効率的で重要な役割を持たせなければならない」(産経新聞  2015.11.5
ゆうちょ銀行・長門正貢社長「郵便局との関係は不滅」
 ――上場後の資産運用などの成長戦略は
 「今春に発表した平成29年度までの中期経営計画で、高いリターンを目指すサテライト運用を46兆円から60兆円まで増やすと明記している。従来の投資物件だけでなく、リスクコントロールした上でファンドへの投資もやる。投資運用の専門家を年内に10人ほど外部から招き投資を深掘りする。手数料収入も増やす。他社が作った投資信託商品を233の直営店と1300の郵便局で扱っていたのを、わかりやすくリスクの低い商品をなるべく全国津々浦々のネットワークを使って売っていきたい。三井住友信託銀、野村ホールディングスとの投信の新会社でこの新しい投信を作る」
 ――将来、日本郵政が株式を完全売却しても、郵便局との関係は変わらないか
 「郵便局との関係は不滅だ。仮に全く資本関係がなくなっても、2万4千局は大きな価値がある。関係は絶対に維持したい。委託業務契約を結ぶかもしれないがお互いに必要な関係だ」(産経新聞 2015.11.25
かんぽ生命保険・石井雅実社長「加入限度額 引き上げ期待」 

 ――日本郵政はかんぽ生命の株売却を進める考えだが、出資比率が減ることによるメリットは
 「一番違うのは商品認可のスピードだ。いまは郵政民営化委員会の議論や意見公募を経て、郵政民営化法と保険業法の2つの認可が必要になる。出資比率が50%を切れば、民営化法では届け出制に変わるので、他の生保と同じく数カ月ぐらいで商品を投入できる」
 ――加入限度額の引き上げを自民党の委員会が提言している。有利になると考えるか
 「基本保障の限度額を上げてもらうのは、基幹システムの更改作業中なので動きがとれない。既存の契約者が4年経過すると1千万円から300万円限度額を上乗せできる通計制度があるが、その上乗せ分を1千万円に上げてもらうことを期待する」(SankeiBiz 2015.11.21

減少の時流に逆行

成長させたいのか、安定させたいのか

 1987年2月10日に熱狂的な人気と共に上場したNTT。それは本格的バブル時代の幕開けを占うものでありました。上場時に株を買えなかった人たちはまるで宝くじに群がる人のごとく、NTTを求め、初値は売り出し価格より40万円高い160万円、そして騰勢を維持したまま、3月4日には301万円をつけます。新聞はトップで同社の株価を取り上げ、正に国民的関心を煽ったのでありました。
 そのNTT株は民営化したNTTグループ、JRグループ、およびJT(日本たばこ)と比べて株価上昇率が唯一マイナスの銘柄であります。ドコモも一時は4倍近くまでいったもののその後、マイナスまで落ち込み、現在でも上昇率は極めて低いところに放置されています。
日本郵政グループが11月4日に上場するにあたり、あの時の熱狂こそ感じられないのですが、前人気は高いとされ、安定的な株価が見込まれます。ではお前は買うのか、と言われれば「買わない」の即答でありますが。
昭和62年2月9日に売り出し価格119万7000円で上場したNTTは、初日は買い注文が殺到して値が付かなかった=2月10日付の大阪新聞
昭和62年2月9日に売り出
し価格119万7000円で
上場したNTTは、初日は買
い注文が殺到して値が付かず
(2月10日付大阪新聞)
 日本郵便を所有する日本郵政はゆうちょとかんぽからの郵便局の窓口業務代行手数料を郵便事業の赤字補てんとする仕組みになっています。つまり、日本全国24000を超える郵便局とその局員をインフラとして様々なビジネスを行っている日本の基盤そのものであります。
 先日、山形県のある地方都市に出掛けたのですが、人もあまり歩いていない田舎町に郵便局があちらこちらにあり、ある意味、田舎ではコンビニより存在感があることを改めて感じさせました。そのビジネス基盤は確かに誰も追いつけない重みすらありますが、郵便局に行く人はその目的が限られるという点に於いて効率の問題は当然上がってくるでしょう。
 郵便局長さんは信頼できる人で田舎では駐在さん(おまわりさん)と同等の社会的地位があると言っても過言ではないでしょう。それは一つの価値ですから民間が大好きなリストラをせず、その持てるインフラをどう生かしていったらよいか考えたらよいでしょう。
 民営化した企業の中で株価的に最も成功しているのはJR東海ですが、それは持てる資産をうまく生かしていったことがポイントでした。駅という人が集積するところに電車に乗るだけではなく、不動産事業をし、物販をすることで多大なる収益を上げました。もう一つの成功例はJT(日本たばこ)でしょう。こちらは海外のたばこ会社を次々と買収し、企業の国際化を図っていきました。こちらも持てる能力にレバレッジをかけたという意味で高く評価できるかと思います。
 今、郵政の株に興味があるとすればゆうちょ銀行で3.4%程度の利回りとなり、同業のメガバンクよりも高くなっている点でしょうか?潰れる心配がない企業がこの低金利下でこれだけの利回りを提供してくれるなら、株価のリスク含みがあるとはいえ、機関投資家などがこぞって購入したくなる理由は分かる気がします。また、日本郵政についても黙っていても年間1兆円近い業務委託料が入ることは赤字の底が知れているともいえます。一方、弱みはその1兆円の収入故に郵便事業を改善しようとする意志に欠けることでしょう。
 今回の3社はどれも立派な会社ですし、投資対象として悪くはないのでしょうけれど私にはどきどきさせるものが感じられません。成長させたいのか、安定させたいのか、経営方針も野心もまだ何も見えません。政府に遠慮しているのだろうと思います。その点に於いてこれら3つの会社がもっと民間との競争で切磋琢磨するには相当時間がかかるのでしょう。10年以上は覚悟です。そこが私がこれらの株に興味がない点でもあります。
 日経に面白い記事が出ていました。今は80年代後半のバブル前夜時期とそっくり同じだと。冒頭NTT上場を回顧した今回の郵政上場もそうですし、先日のチャイナショックはブラックマンディと重なるそうです。株価チャートもお見事に重なっています。となれば、戦艦ジャパンはまだまだ驀進できる余力があるということなのでしょうか?小泉さんの時から始まったこのドタバタもようやく区切りになるという意味でも感慨深いものがあります。(バンクーバーの日本人社長ヒロ「外から見る日本、見られる日本人」2015.11.02

好発進 のるかそるか

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