安田純平さんも見殺しにするのか
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安田純平さんも見殺しにするのか

昨年6月に内戦下のシリアに入国後、行方が分からなくなったフリージャーナリスト、安田純平さんとみられる男性の画像がインターネットに投稿された。「助けてください。これが最後のチャンスです」。身柄を拘束した犯人グループの思惑と安田さん本人の覚悟が複雑に絡み合う事件の舞台裏を読み解く。

昨年6月に内戦下のシリアに入国後、行方が分からなくなったフリージャーナリスト、安田純平さんとみられる男性の画像がインターネットに投稿された。「助けてください。これが最後のチャンスです」。身柄を拘束した犯人グループの思惑と安田さん本人の覚悟が複雑に絡み合う事件の舞台裏を読み解く。

篠田博之の視点

 フリーランスのジャーナリスト、安田純平さん(42)が昨年6月にシリアで拘束されてまもなく1年になる。当初は全く消息が明らかにされなかったが、今年になってから3月16日に安田さんの動画とメッセージが公開され、5月末にも写真が公開された。アルカイダ系のヌスラ戦線が拘束しているとされるのだが、どうやら日本政府から身代金を出させるのが狙いのようで、一連の映像公開はその揺さぶりとしてなされていると言われる。
 最近公開された写真には安田さんが「助けてください。これが最後のチャンスです」と書かれた紙を持っており、交渉人と目されるシリア人が「交渉期限はあと1カ月」と言っているという報道もなされている。
 昨年、イスラム国に人質になった後藤健二さんらが殺害されたこともあって、このところ日本国内でも安田さんの身を案じていろいろな動きが出始めている。例えば、6月6日夜には首相官邸前に100人以上の市民グループが集まり、安田さんの救出へ向けてあらゆる努力をすべきと訴えた。
 ただ、この市民グル―プの行動にも賛否を含め多くの意見が寄せられたように、安田さんの救出をめぐっては実にいろいろな議論がなされている。拘束側の目的が身代金獲得であることが明らかであるため、下手に動くと彼らの思惑に乗ってしまう恐れがあるからだ。また安田さんは何度も戦場取材の経験を積んで、こういう局面で自らが何らかの取引に使われることをよしとしないという覚悟を持っており、そのことを表明してもいた。その本人の意志も尊重せねばならない。(月刊『創』編集長、篠田博之)

組織ジャーナリズムの限界

中東ジャーナリストが明かす最新情報

戦争のリアルを伝える使命

「5千万円で解決してあげる」

見過ごすことはできない

安田純平氏は軍事に詳しいが、アラブの民の目線から取材報道を続けている。=6月6日、官邸前(田中龍作撮影)
安田純平さんの無事帰還を求める市民集会。安田氏は軍事に詳しいがアラブの民の目線から取材報道を続けている=6月6日、官邸前(田中龍作撮影)
 きょうほど記事にしてよいものかどうか、悩んだことはない。
 平和団体が今夕、シリアで反政府武装勢力に拘束されている、フリージャーナリスト・安田純平さんの解放を求める集会を官邸前で開いた。
 安田さんに近いジャーナリストたちは、こうした集会に否定的だ。「かえって安田さんの身を危険にさらす」「本人が『助けて下さい』と思っていない」などの理由からである。
 彼らは現地の情勢に詳しく、安田さんが置かれている状況もよく知っている。確かに説得力がある。
 迷いに迷ったあげく田中は官邸前まで行き、記事にした。
 沈黙していたら官邸が後藤健二さんの時のように おざなり の対応をするのは目に見えている。さらにはマスコミを使って自己責任論を喧伝するだろう。
 田中もよく中東取材に出かけるので、現地で拘束される可能性がある。安田さんのことが他人事には思えないのだ。(田中龍作ジャーナル 2016.6.6
身代金欲しさに脅し=常岡氏「揺さぶりに乗るな」-ヌスラ戦線(時事通信 2016.5.30)

最悪はイスラム国への引渡し

真の情報はリスクから

戦地取材から得られるもの

救出をめぐる考え方の違い

 実は昨年6月に安田さんが行方不明になって以降、知人のジャーナリストを始め、多くの人たちが安田さん救出のために水面下で動いていた。その段階では、大ごとにして拘束グループに身代金獲得の期待を抱かせぬようにとの思いから、様々な試みが非公式になされていたのだった。ただ昨年末以降、安田さんの拘束が公に報道されるようになり、事態は新たな局面に至った。
今年3月にフェイスブック上に公開された、シリアで行方不明になったジャーナリスト安田純平さんとみられる男性の映像
 この段階で、どう行動することが安田さん解放への近道なのかをめぐって、様々な議論がなされるようになった。そういう議論を一堂に会して行おうという趣旨で開催したのが、4月19日の『創』主催のシンポジウム「安田純平さん拘束事件と戦場取材」だった。昨年、後藤健二さんらの人質事件の後にシンポジウムを開催し、そこに安田さんも参加していろいろな議論を行った経緯があったため、改めて呼びかけて開催したものだ。
 そこでは様々な立場からいろいろな意見が表明された。ジャパンプレスの藤原亮司さんは「今日のシンポジウムの開催趣旨にもありますが、『こういう局面で私たちが何をすべきか、何ができるのか』ーー私は、何もしないでほしいと思っているんです」と語った。
中東ジャーナリストの川上泰徳さんは、それに異議を唱えてこう話した。「私は、交渉イコール身代金を支払うものだと決めつけないで、いったい何を求めていて、どういうコネクションがあってどういう話ができるかということをまず探るべきだと思っています」「相手が『テロ組織』であっても何もしないというのではなく、できる限りの努力をする必要があり、そのためにはジャーナリストである私たちも動く必要がある」
 シンポジウムではそのほか、アジアプレスの野中章弘さんが戦場取材におけるフリーランスの置かれた状況について、新聞労連委員長の新崎盛吾さんが組織ジャーナリズムとフリーランスについて語った。さらにフリージャーナリストの志葉玲さんや、作家の雨宮処凛さんがそれぞれの意見を述べ、活発な議論が行われた。
 それらの議論は、発売中の月刊『創』7月号に28ページにも渡って詳細に紹介されているし、創出版のホームページ(http://www.tsukuru.co.jp/)からその部分だけをスマホなどで読めるようにしてある。関心ある人はぜひ議論の全文を読んでいただきたいが、ここではその中から幾つかの発言を抜粋して公開し、あわせて志葉さんがブログに書いた記事や、あるいは安田純平さんがかつて戦場取材を行うために信濃毎日新聞社を辞めた経緯を書いた『創』の手記なども公開することにした。
 つい最近、6月9日発売の『週刊新潮』に「勝手に『安田純平さん』身代金交渉という自称ジャーナリストの成果」と題してジャーナリスト西谷文和さんを批判する記事が掲載された。この記事に対して西谷さんは憤り、記事中でコメントもしているジャーナリストの常岡浩介さんを自らのブログで激しく批判している。安田さん救出をめぐる考え方の違いは、激しい対立にまで至りつつあるわけだ。
 いずれにせよ、安田さん拘束事件がいまどういう状況にあり、救出へ向けて私たちがどういうことを考えなければならないか知ることは大切なことだ。それは戦争を報道する意味とは何なのか、もっぱらフリーランスに危険な取材を負わせているという現在の日本における戦場取材のあり方をどう考えるべきかなど、ジャーナリズムの基本に関わる問題とも関わっている。
 この問題をめぐっては、近々、川上さんやイラク戦争の報道で知られる綿井健陽さんら何人かの間で「危険地報道を考えるジャーナリストの会」といった会を立ち上げ、安田さん解放へ向けた声明を世界に発信しようという動きもある。
多くのジャーナリストや市民がこの問題を一緒に考え、議論するために、ここではこの間、出された意見の幾つかを紹介しよう。そして安田さんが一刻も早く無事に解放されることを祈りたいと思う。(月刊『創』編集長、篠田博之)
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