極右化する世界「トランプ現象」を考える
448

テーマ

極右化する世界「トランプ現象」を考える

いま、世界の政治が右傾化を強めているという。EU離脱や反移民を主張する排外主義、中でも今秋の米大統領選の主要候補、ドナルド・トランプ氏の過激な発言はそれを象徴する。ポピュリズムが席巻する世界の政治情勢を「トランプ現象」から読み解く。

いま、世界の政治が右傾化を強めているという。EU離脱や反移民を主張する排外主義、中でも今秋の米大統領選の主要候補、ドナルド・トランプ氏の過激な発言はそれを象徴する。ポピュリズムが席巻する世界の政治情勢を「トランプ現象」から読み解く。

孤立主義は米の遺伝子

噴出した不満のマグマ

背景にある米国経済の停滞

「自国第一主義」の先に何があるのか

 6月24日、たいへんなニュースが世界を駆け巡った。イギリスがEUを離脱するか残留するか、その賛否を問う国民投票をおこなった。結果は「離脱派」の勝利だった。僕は、まさか離脱はないだろうと考えていた。いや、僕だけではない。多くの人が同じように、「まさか」と思っていたのではないだろうか。EUから離脱すべきと考える人は、移民や難民が自分たちの仕事を奪うと恐れていた。そして、そう感じているイギリス国民が、想定以上に多かったということなのだ。
 当然ながら、日本にも強い影響がある。EU離脱が決まった24日当日は、日経株価は1万5000円を割り込み、急激な円高が進んでいる。では、フランスやドイツ、オランダといった欧州各国はどうするのか、イギリスに続き、EU離脱への動きが広がるかもしれない。アメリカでも影響は出るだろう。トランプ氏のアメリカ大統領選の勝利を後押しするのではないかとも、僕は考えている。イギリスのEU離脱は、いわば「イギリス・ファースト主義」の勝利だ。ほかの国をかまっている場合ではない。イギリスという国とイギリス国民の利益を最優先させようということなのだ。
 このような動きは世界中で進んでいる。アメリカでトランプ氏が支持を広げているのもそうだ。「メキシコとの国境に壁を築け」という発言もそうだし、移民受け入れにもあからさまに反対している。トランプ氏こそ、まさに「アメリカ・ファースト主義」者なのだ。アメリカ、イギリスといった世界を代表する2大国で、いま「自国ファースト主義」が強くなっている。非常に危険なことだ。このような流れが広まったとき、いったい世界はどうなるのか。世界はまさに、大きな岐路に立っている。そして、一方の行き先には「第3次世界大戦」があるだろう。僕たちは、この最悪の選択だけは回避しなければならない。(田原総一朗公式ブログ 2016.07.04

壁を作るのか、橋を架けるのか

西側世界を覆う政治不満

「帝国」を生み出しつつある世界

「トランプ大統領」が強く危惧される理由

 この原稿は再びワシントンのホテルで書いている。まずは次の言葉をご紹介しよう。
 「彼は米国大統領としてふさわしくない、怒りに満ちた野蛮な言動の危険人物だ」
 クリントン候補のトランプ批判ではない。1824年、第3代大統領トーマス・ジェファソンがアンドルー・ジャクソンを評した言葉だ。同年の大統領選でジャクソンは民主共和(現在の民主)党の候補だった。今の米国は192年前とどこが違うのだろう。
米大統領選で、支持者に手を振って応える共和党のトランプ候補=カリフォルニア州(ロイター)
米大統領選で、支持者に手を振って応える共和党のトランプ候補=カリフォルニア州(ロイター)
 米国出張は今年に入って既に4度目。今回はユダヤ系米国人団体AJCの年次総会に招かれた。AJCとの付き合いは25年になるが、パネリストになるのは初めて。個人的には大変名誉である。それにしても、今年の大統領選は戦況が猫の目のように変わる。やはり米国内政の地殻変動は本物だと実感する。
 6月4日は一日ホテルで原稿を書いた。27年前に天安門事件が起きた日だ。香港では追悼集会が開かれたが、北京でこの事件は完全に無視された。そう考えていたら、ムハマド・アリ氏が亡くなった。米メディアはこの大ニュースを繰り返し報じた。アリ氏といえば米国では伝説のボクサー。1960年代、人種差別に反対し、イスラム教改宗後に良心的兵役拒否でヘビー級王者タイトルを剥奪されたが、その後2度もチャンピオンに返り咲いた。日本では異種格闘技戦で有名だが、米国ではボクシングだけでなく、公民権運動を象徴するイスラム教徒初の国民的ヒーローである。
 そのアリ氏が亡くなる前日、トランプ候補は、「メキシコ系」というだけの理由で、係争中裁判の担当判事を批判し再び物議を醸した。同判事はインディアナ州出身だが、トランプ氏は、「判事はメキシコ人だ。私はメキシコとの間に壁を立てようとしているんだぞ」と言い放った。わが耳を疑うとはこのこと。同発言は反人種差別運動と米司法システムに対する挑戦だ。中国は仕方ないとしても、これが今のアメリカなのか。アリ氏が差別と闘った60年代以降、米国は本当に変わったのか。
 米政治学者ウォルター・ミード氏は米国外交を4つの潮流に分類した。
 ①海洋国家を志向し、対外関与に積極的で、国力の限界にも楽観的なハミルトニアン。
 ②大陸国家を志向し、対外関与は選択的で、国力の限界を自覚するジェファソニアン。
 ③普遍的理念を外交目標として追求するウィルソニアン。
 ④国権発動や国威高揚を重視し、軍事的解決に傾斜するジャクソニアン、がそれだ。
 最後のジャクソンは第7代大統領、正規の教育は受けていない。米英戦争で英雄となったたたき上げの軍人だ。米国の学者が歴代大統領を心理学的に検証した結果、トランプ候補の気性はジャクソン大統領に最も近いという。なるほど、米国の友人が「トランプ大統領」を強く危惧する理由がこれでよく分かった。
 ちなみに、冒頭紹介した1824年の選挙は、4人が立候補したが本選挙では誰も過半数を獲得できず、米国憲法修正第12条に従い、下院が大統領を選んだ唯一の例だ。されば今年の選挙戦が荒れるのも当然なのかもしれない。(宮家邦彦、産経ニュース2016.06.09

戦後秩序の方向転換

極右化する世界「トランプ現象」を考える

みんなの投票

「トランプ現象」のような政治の右傾化は今後拡大すると思いますか?

  • 思う

    381

  • 思わない

    47

  • 分からない

    20