生活保護はそんなに悪いのか
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生活保護はそんなに悪いのか

不正受給がクローズアップされがちな「生活保護」。神奈川県小田原市では担当職員が「保護なめんな」とプリントされたジャンパーを着用し問題となった。第三者委員会で検証が始まったが、支援する職員の差別意識が見え隠れする。生活保護はそんなに「悪」なのか。

不正受給がクローズアップされがちな「生活保護」。神奈川県小田原市では担当職員が「保護なめんな」とプリントされたジャンパーを着用し問題となった。第三者委員会で検証が始まったが、支援する職員の差別意識が見え隠れする。生活保護はそんなに「悪」なのか。

受け継がれてきた「違法」な対応

相談者を怒鳴りつける職員

利用者の生存を脅かす「パワハラ」

システムの疲弊が生み出す差別意識

小田原市職員の歪んだ正義感

 小田原市役所の生活支援課には、この日も市民が生活保護の受給や自立支援の相談に足を運んでいた。「ジャンパーを着て訪問されたかは覚えてないけど、なぜこんなものが作られたのか」。母親の介護に追われ、やむなく生活保護を受けている50代の女性は問題となった「保護なめんな」ジャンパーについてこう語った。体調を崩して生活保護を受けている60代の男性も「きちんと対応してくれる職員がいるのは間違いない。でもこんな意識で私たちを見ている職員もいるのかと思うと・・・」と話し、ジャンパー問題が発覚して以降、生活支援課は重苦しい空気に包まれている。
小田原市の生活支援課には
市民が相談に訪れていた
 市に再発防止などの申し入れをした「小田原地域生活と健康を守る会」は受給者への聞き取り調査を進めているが、応じたのはまだ10人程度とほんのわずかだ。「福祉事務所やケースワーカーといった本来受給者に寄り添うべき人たちへの不信感が募っている。受給者は抗議をしたい気持ちがあるけど、声を上げづらい。申請を考えていた彼らの知人も今回の問題で思い留まってしまい、それがまた受給者を苦しめる」と事務局長の小松信氏は深刻な現状を打ち明ける。そもそも生活保護に頼ることにネガティブな感情がある中、現に福祉事務所では申請をさせずに追い返す『水際作戦』が行われているという。「個人で申請するにはただでさえハードルが高い。正当な受給資格があるのに、こんなことで色眼鏡で見られるようになってしまうことは許せない」と小松氏は憤る。
 「私たちは正義。不正を見つけたら追及する。不正受給して市民を欺くのであれば、あえて言う。そのような人はクズである」。ジャンパーには生活保護という「命を守る最後の砦」として行政が取り組むべき弱者支援からまるでかけ離れた文言が並ぶ。英文でプリントされ、一見しても分からないが、この内容に違和感を覚える人は多い。
 「差別意識はなかったが、正義感が歪んでしまっていたと言われても仕方がない」。生活支援課の栢沼教勝課長はジャンパーを着用していた職員の意識に問題があったことを認めた。栢沼氏によると、現在は別の部署で勤務する当時の係長は、市の聞き取り調査に対し、平成19年に生活保護の受給を打ち切った男から窓口職員が刃物で切り付けられた事件を踏まえ「ジャンパーは事件後の士気高揚のためで、一時的なものとの認識だった。受給者宅に着ていく服ではないという感覚はあったが、その後も代々、職員が新たに買い、結果的に10年もの間使われてきた」と説明。本来対象ではない市民が受給すれば不公平になるとの考えから、不正受給者をなくすことが重視されるようになったという。
 士気高揚のためだったとはいえ、職員の内輪の論理で生まれたジャンパー。「不正受給を許さない」というメッセージ性が強い言葉を選んだのも、「正義感」からかもしれないが、職員の意識から「市民の生活を守る」という最大の目的と使命が薄れていたようだ。現にジャンパー作成後も、同様のロゴや文言が入った夏季用のポロシャツやフリースジャケット、Tシャツのほか、マグカップ、携帯ストラップ、マウスパッドなどが作成され、昨年にもボールペンが作成されていた。
 栢沼氏自身も「職員が着ていた姿は何度か見ていたが、内容について意識したことはなかった。歴代上長の引き継ぎもなく、チェックも効いてなかった」と語るように、こうしたグッズが10年にわたって次々と作成され続け、指摘する職員がいなかった事実をみれば、不正受給者ばかりを重視する意識は改善されるどころか、むしろ強まっていたことがうかがえる。
 厚生労働省によると、2015年度の生活保護受給世帯は約163万世帯で、このうち不正受給件数はわずか2・7%にとどまる。生活保護制度は本来、憲法25条に基づき最低限度の生活を保障するための制度であり、各自治体にいる担当職員は支援の漏れがないようにするのが最大の役割だ。栢沼氏は今後の対策として、不足している生活保護の担当職員を現状の25人から4人増員する方針を明らかにするとともに、「これまで研修は実務的なことばかりが優先されてきた。憲法25条の精神を基本にした心構えを重視した研修で職員の意識を変えていくしかない」と語ったが、根底にある意識を変えることは容易ではない。(iRONNA編集部 松田穣)

「チーム」で盛り上がる必要はない

過酷なケースワーカーの現場

生活保護「なめんな」の考え方

 「保護なめんな」と英字でプリントされたジャンパーが話題だ。神奈川県小田原市は、生活保護担当者が着用するには不適切だとして使用を禁止したが、ネット上では異論も出ている。
 このジャンパーは、職員が自腹で購入したもので、きっかけは、10年前に生活保護担当職員が、支給を打ち切られた受給者にカッターナイフで切られる事件だった。それでも不正受給は許さないという姿勢や連帯意識向上を示すために職員からの発案で作られたという。
 地方公務員は法律順守義務があり、不正受給は許せないといっているのに対し、テレビの左派コメンテーターは、人権を理由として表向き真面目な受給者を萎縮させないようにと言う。
 (1)不届き受給者の不正受給は見逃せない(2)真面目な受給者を萎縮させない-という2つの見方のどちらを優先すべきかという問題である。
 (1)の主張から見ると、(2)は暗に不正受給を見逃せといわんばかりだ。一方、(2)を主張する者は生活保護担当者が(1)にこだわるあまり適法な生活保護申請の受け取りも拒んでいるという。
 (1)の立場から、違法行為を防ぐためには、生活保護の現金給付を改めて現物給付にするという案も、自民党などから出ている。例えば、米国で低所得者向けのフードスタンプのようなものを日本にも導入するという考え方もある。最近の米国では、スーパーマーケットなどで使用可能な磁気カード型のものとなっている。
 ただし、日本の左派系は、現金給付を現物給付やフードスタンプに変更することさえ、受給者の尊厳を損なうとして反対する。
 筆者は、違法行為防止のため(1)を優先すべきであると思う。というのは、不正受給を放置しておくと、生活保護制度そのものが崩壊する可能性があるからだ。その場合、まともな受給者まで悪影響を被ってしまう。
 不正受給率は全体の支給額の0・5%だから小さいというが、所得税脱税額(追徴額)の所得税収に対する比率が0・6%なので、不正受給率が低いとは言いがたい。
マイナンバー制度を知らせるチラシ
マイナンバー制度を知らせるチラシ
 具体的には、事前の生活保護申請で厳しくチェックするより、事後チェックで不正がより発覚するような制度作りが重要である。そのためには、給付の使途が事後的に明確になるようにすべきである。今やマイナンバー時代であるので、生活保護給付を電子マネーで行い、その資金使途が事後的にチェックできるようにする。こうすれば、第三者にはカード決済と同じであるので、受給者の尊厳を損なうことはない。その一方、生活保護給付の資金使途が事後的に明確になって、不正受給は減るはずだ。
 ところが、テレビの左派コメンテーターは、こうした具体案を出さずに、生活保護費の増額ばかりを言いがちである。生活保護者受給者の増加は、ほとんど失業率で説明できるが、左派コメンテーターは、失業率を下げ、結果として不正受給も抑える金融緩和に反対するので、その論理矛盾は見ていられないほどだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一 ZAKZAK 2017.1.25

課題が山積する不正受給の最前線

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