もう手遅れ? 「殺人」ヒアリの猛威
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もう手遅れ? 「殺人」ヒアリの猛威

この夏、小さな「殺人アリ」が日本を席巻している。南米原産の強毒外来種、ヒアリ。女王アリを含む固体が各地で見つかっており、生息域の拡大に懸念が広がる。ひとたび定着すれば、根絶は不可能とも言われるヒアリの生態。水際で防ぐことはできるのか、それとも既に手遅れなのか。

この夏、小さな「殺人アリ」が日本を席巻している。南米原産の強毒外来種、ヒアリ。女王アリを含む固体が各地で見つかっており、生息域の拡大に懸念が広がる。ひとたび定着すれば、根絶は不可能とも言われるヒアリの生態。水際で防ぐことはできるのか、それとも既に手遅れなのか。

最も対応を誤ったのは米国

重篤な被害は1~5%

46年前からの「警告」

「世界遺産」小笠原に学べ

刺された場合は?

 どうしてアリの発見がニュースになるくらい大きな話題になったのだろう。
 ヒアリは漢字では「火蟻」と書く。英語でもfire ant、文字通り火のアリと呼ばれている。問題になっているのはfire antの中でも「Solenopsis invicta(S invicta)」で、体長はわずか2-6ミリ。こんな小さな蟻だが、極めて凶暴(人間の勝手な言い草ではあるが)だという。 
 家畜を死傷させ、また、刺された人が死亡するケースもある。公園など人がいるそばに巣をつくるため、子供や老人が被害を受ける可能性があることが危惧されている。経済的な被害も甚大で、アメリカでは年間5000億円もの被害が出ているという。
 原産地は南アメリカ。亜熱帯、温帯でも生息できるため、現在環太平洋地域に広がっており、日本はヒアリがいる国に包囲されているといっても過言ではない。アメリカでは、環境科学の名著といわれる『沈黙の春』(レイチェル・カーソン著)が、ヒアリの拡大のきっかけを作ったといわれているという。
 もしヒアリに刺されたらどうすればよいだろうか。基本的には、ハチに刺されたときと同じ対応であり、ヒアリ特有の対策が必要というわけではない。しかし、ハチに刺されて亡くなる人は年間20人もいる。現段階でヒアリに刺される可能性のある人は、ハチに刺される人よりはるかに少ないし、軽症で済むことがほとんどだが、命の危険にさらされる可能性があることは肝に銘じたい。
 ヒアリの毒が死をもたらすのは、アナフィラキシーを引き起こす可能性があるからだ。アナフィラキシーとは、「アレルゲンなどの侵入により、複数臓器に全身性のアレルギー症状が惹起(じゃっき)され、生命に危機を与え得る過敏反応」をいい、これに血圧低下や意識障害を伴うと、アナフィラキシーショックという(日本アレルギー学会 アナフィラキシーガイドライン)。
 ちょっと難しいので簡単に解説すると、ヒアリと接触して皮膚や粘膜が赤くなったり、じんましんが出る、かゆくなる、息が苦しくなる、ふらつく、意識が遠のく、吐き気がする、吐くといった症状があらわれた場合、アナフィラキシーと考える。
 そういう症状が出た場合、横に寝せてすぐに助けを呼ぶ(救急車を呼ぶ)ことが必要だ。救急隊が到着するまでは、あおむけにして足を30センチ程度高くする、呼吸が苦しいときは上体を起こす、吐いているときは顔を横向きにするといった対処で、息ができるようにする。急に立ち上がるのは禁物だ。
 ヒアリに接触する可能性がある人で、過去にアナフィラキシーの経験がある人などは、アドレナリン自己注射薬(商品名エピペン)を携帯することが効果的な場合がある。また、抗ヒスタミン薬の内服薬を持っておくことも効果的かもしれない。いずれも、医師に相談してどうするか決めてほしい。
 ヒアリの侵入、定着が現実的な危機になっている今、私たちはヒアリに対する関心を持ち続け、過剰反応せず、とはいえ無視や軽視をせず、冷静にヒアリを恐れていきたい。(病理専門医・榎木英介「Yahoo!ニュース個人」 2017.06.23

ヒアリの生態

恐るべし侵略的外来種

ヒアリを「根絶」せよ!

 強い毒を持つ南米原産のヒアリが各地で見つかっている。繁殖力が極めて強く、貨物にまぎれて生息域を広げるヒアリは海外でも深刻な被害をもたらす危険な外来昆虫として知られる。特に米国では年間100人ほどの死亡例が報告され、文字通り「キラーアント(殺人アリ)」として恐れられる。今年5月以降、発見が相次ぐ日本でも、環境省や関係自治体が駆除や拡散防止に本腰を入れ始めた。「水際対策」は可能なのか。現場を取材した。
大井コンテナ埠頭の港湾内に配置されたアリの駆除剤=7月7日(嶋諒子撮影)
 東京の海の玄関口、大井埠頭(東京都品川区)。全長2・3キロ、巨大な7バースの大水深岸壁からなる世界有数のコンテナ埠頭である。今月3日、5号バースに陸揚げされたコンテナの中から、ヒアリ一匹が見つかった。コンテナは中国広東省から香港を経由して運び込まれ、コンテナ業者が点検中にヒアリを発見したという。
 東京都のその後の調査で、さらに100匹以上が見つかり、埠頭を管理する都港湾局や環境省などは、ヒアリが確認された現場から周辺2キロの調査を開始。コンクリートの割れ目や草が生えた場所の根元などを目視で確認するとともに、アリを餌でおびき寄せて殺す「ベイト剤」と呼ばれる駆除剤を港湾内に置くなどして拡散防止に乗り出した。
 埠頭に隣接する「大井ふ頭中央海浜公園」では、都の職員らが「ストップ・ザ・ヒアリ」と書かれた環境省のリリースを配布するなどして、ヒアリの特徴や他のアリとの見分け方、刺された際の初動対応などについて公園利用者に情報提供した。都の担当者は「ヒアリは触覚の先が丸みを帯びているという特徴がある。噛まれれば大変危険なので一般の人が見つけた場合は、決して触らずに自治体にすぐ通報してほしい」と注意を呼び掛けているが、今のところ公園内で新たに確認されたとの報告はないという。
 では、実際に人がヒアリに刺された場合、どうなるのか。2006年に台湾で調査中に刺されたことがあるという静岡県立ふじのくに地球環境史ミュージアム(静岡市)の岸本年郎准教授は「僕の場合は深刻なアナフィラキシーショックを起こしましたが、すぐに病院で適切な治療を受けたので重篤な状態にはならなかった」と振り返り、「ヒアリに刺されても発作が出る場合と出ない場合がある。もし、ヒアリに刺されて発作が出た場合はすぐに病院へ行ってほしい」と注意を促す。
 岸本准教授によれば、ヒアリが爆発的に繁殖するのは、次の世代の女王アリが誕生した後。この女王アリが生まれるにはある程度の大きさの巣が必要であり、巣が大きくなるには最初の定着から一年ほどの時間がかかるという。岸本准教授は「ヒアリを水際で防ぐというのは現実問題として難しい。今後は、ヒアリの定着を防ぐことが重要になる。そのためには早期に巣を発見し、まだ巣が小さい段階で駆除する必要がある」と指摘する。
 この夏、日本中を震撼させる最凶の外来生物、ヒアリ。今後も各地で報告事例が相次ぐ可能性は高いが、日本と同じ島国のニュージーランドでは、2004年と06年に見つかった際、行政が公費を投じて港湾周辺の定期的な調査と一般人からの情報提供などが早期発見につながり、根絶に成功したという。こうした前例はきっと参考になる。水際対策や一般市民への注意喚起はもとより、ヒアリに関する情報提供とその拡散が「根絶」への一歩になると信じたい。(iRONNA編集部、嶋諒子)
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