「老老介護」とどう向き合う

厚生労働省によると、介護が必要な65歳以上の高齢者を65歳以上の人が介護する「老老介護」の世帯の割合が過去最高の54・7%に達した。核家族化と超高齢社会が進行し、「大介護時代」に突入したニッポン。私たちはこの現実とどう向き合うべきか。

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垣間見えた「老老介護」の理想形

 待ち合わせ場所で出会ったのは背筋がピンと伸び、涼しげな表情をした女性だった。年齢を聞くまで74歳には到底見えない。自宅での取材に応じてくれたこの女性、自身のブログ「いち・に~の・サン!」で母親の介護をつづっている都内在住の朋子さんだ。
 「大変なことねえ、ブログを見てもらえばわかると思うんだけど、今はそんなに大変なことはないのよ」。朋子さんは陰鬱な「老老介護」のイメージとはちがい、明るく現状を語ってくれた。
フジ子さんと愛猫「のび太」くん
 朋子さんは98歳の母、フジ子さんと2人暮らしだ。3年前の夏、フジ子さんは足が突然むくみ、体中の痛みを訴えた。一時は起き上がれないほど悪化したため、病院に駆け込み、介護の申請手続きをした。当初の認定は「要支援1」。これは日常生活をほぼ一人でできるレベルだ。だが、その後フジ子さんは1日に10回も食事をするなど、認知症とみられる行動が目立つようになり、現在は日常生活に介護が必要な「要介護2」まで悪化しているという。
 今でこそ明るい表情の朋子さんだが、やはりこれまでに相当の苦労があったようだ。ブログは生活のほぼすべてが介護に向けられていた当時、鬱屈した気持ちを吐き出すためにはじめた。さらに、負担を軽減させるためにさまざまな工夫もしてきた。例えば、長年使っていた食卓のコタツをテーブルとイスにしたり、ベッドの脚を高くして、起き上がりやすいようにしたりした。それまでは起き上がるたびに介助が必要で、ブログのタイトル「いち・に~の・サン!」もその時のかけ声にちなんでいる。
 本来なら公的なデイサービスを受けられるが、朋子さんが在宅介護をしているのには理由がある。フジ子さんがどうしても行きたがらなかったからだ。また、理学療法士を自宅に呼んだことがあったが、フジ子さんが知らない男性が来るのを嫌がるため、最近は利用していない。朋子さんは「(フジ子さんが)トイレを自分でできているから、まだ、何とか一人でやっていける」と話した。
 さらに、フジ子さんは「新しいことをおぼえる」ことが困難だという。自宅の電話を買い換えた際、何度教えても電話を受ける動作をおぼえられなかった。大きく見やすい字で図解した紙を貼っても、わずか2つのボタンを順番どおりに押すということができない。
 とはいえ、できることは自分でやってもらうことを続けてきた甲斐あってなのか、フジ子さんの症状は良くなったり、悪くなったりを繰り返しながらも症状が改善している部分もある。今では、習字や散歩もほぼ毎日できるようになっている。そして取材中、最も印象的だったのはフジ子さんが世話をしてくれる朋子さんに「すみませんね」という言葉を繰り返していたことだ。
 「具合が悪くなるときはいきなりガクッと来るけど、良くなるときはほんとにゆっくりなのよ」。朋子さんは「すみませんね」と常に感謝の言葉を口にするフジ子さんをいたわるように見つめながらつぶやいた。そのとき、ふとフジ子さんが私に声をかけてくれた。
 「私はいくつになってもこの子(朋子さん)が心配。仲良くしてやってくださいね」。どうやら私を朋子さんの友人と思っているらしい。やはり、自身が介護される側になっても子供のことが心配なようだ。
 今回取材した朋子さんのケースはさまざまな老老介護の一端に過ぎない。認知症の夫婦や親子が介護する「認認介護」など、筆舌に尽くしがたい状況に置かれた人もいるだろう。朋子さんとフジ子さんの現状は比較的軽度なのかもしれないが、互いを思いやる場面が多く、老老介護の一つの理想形が垣間見えた気がした。(iRONNA編集部、嶋諒子)

老老介護って大変ですか?

のしかかる負担

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介護は一人で抱え込まない

 最近、よくこんな質問を受けるようになりました。「長尾先生、老老介護で、夫が妻の介護をするのは、日本の男には無理があるのではないですか」。なんとも言えません。夫婦の形は百人百様。「できる人もいれば、できない人もいます」と答えます。
 在宅医療の現場において、戸惑っている夫に関しては「お試しで1、2週間やってみたら? それで駄目なら施設入所を考えましょう」とお話しすることも多いです。それまで妻を冷遇していたり、家庭を顧みなかったりしていた夫でも、少し介護をやってみると、やりがいと、今までの罪滅ぼしができると感じるのか、意外とうまくいくケースもあります。
 男の介護で一番大切なこと。それは「一人で抱え込まないこと」に尽きます。男性は悩みを言葉にすることがヘタ。ご近所にはもちろん、娘や息子にも話すことができずに心を閉ざしてしまう。介護殺人や無理心中を起こすのは7割が男性であることも覚えていてほしいと思います。
7月11日に亡くなった砂川啓介さん。
妻の大山のぶ代さんの認知症を公表し、
献身的に介護を続けてきた(野村成次撮影)
 老老介護は、介護する側もされる側も65歳以上という定義が一応ありますが、超高齢化社会となった今、75歳以上ということも少なくありません。私自身の経験からすれば、老老介護は80歳が限界だと思います。体力がもちません。
 83歳の声優、大山のぶ代さんよりも先に旅立たれた夫で俳優の砂川啓介さんは80歳でした。お二人の間に子供はいなかったそうです。しかし、子供がいないことと老老介護リスクは、あまり関係ないようにも思います(むしろ、子供がいる方が介護生活がややこしくなる場合も)。
 のぶ代さんがアルツハイマー型認知症と診断されたのは2012年の秋。有名人夫婦ということもあり、下の世話まで、啓介さんがお一人で抱えていたようです。精神的に、徐々に追い詰められていく啓介さん。「でも、僕はカミさんにとって、たった一人の身内。俺が頑張らなきゃいけないと思った」と後から振り返っています。
 しかし15年、親友の毒蝮三太夫さんから「老老介護を甘く見るな。このままでは啓介のほうがまいっちまう」と言われ、公表を決意。本まで出版しました。公表をしたことで、自身が妻の認知症を素直に受け入れられるようになったと語っています。
 砂川さんは13年に初期の胃がんが発覚、手術をしました。16年には尿管がんを発症。「妻より先に逝けない」と言い続けながら治療を続けましたが、7月11日、帰らぬ人となりました。どれほどの心残りがあったことでしょう。しかし多くの夫に勇気を与えてくれたことは確か。介護はどうか、一人で抱え込まないで…。(長尾クリニック院長・長尾和宏、zakzak 2017.07.31