漂流するニッポンの「土地神話」
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漂流するニッポンの「土地神話」

利用価値や資産価値のない土地が捨てられはじめている。こうした土地は相続未登記や相続放棄などで所有者不明となり、日本各地で行き場を失った土地が放置されているという。漂流するニッポンの「土地神話」。人口減少時代の象徴ともいえるこの問題に解決の糸口はあるのか。

利用価値や資産価値のない土地が捨てられはじめている。こうした土地は相続未登記や相続放棄などで所有者不明となり、日本各地で行き場を失った土地が放置されているという。漂流するニッポンの「土地神話」。人口減少時代の象徴ともいえるこの問題に解決の糸口はあるのか。

現状は「触らぬ神に祟りなし」

 「九州よりも広い面積が所有者不明」—。今年6月末、元総務相の増田寛也氏を座長とする「所有者不明土地問題研究会」によって発表された。資産価値や利用価値のなくなった土地が、登記されなかったり(相続未登記)、相続放棄されたりすることによって所有者が不明になっているという。そして所有者不明の土地があることにより、倒壊寸前の空き家を処分できない、公共事業を行うことができない、さらに災害被害地域での復興の妨げになるといった問題が起きている。
 この問題、私にとっても身近な問題だった。2年前に祖父が亡くなったときに、山林の登記をとってみると、曽祖父の名義になったものや、そもそも場所がどこなのか分からないといったものが出てきた。それに加えて、祖父の叔父が戦前に建てた家が残っていて、空き家として長年放置されてきた。土地の所有者は祖父だが、建て屋の所有者は祖父の叔父。その子孫が遠方にいるらしいということが分かっており、勝手に空き家を処分することも憚られ、祖父が存命の間は放置していた。しかし、いよいよ倒壊の恐れが出てきたため、今年に入って家を崩した。
 それに前後して、役所に問い合わせてみると、建て屋の固定資産税は支払われていることが分かった。支払人の連絡先を教えて欲しいと頼むと、それはできないけれども、仲介して手紙を渡すことであればできるとのことで、倒壊の恐れがあったため建て屋を崩した、という報告をした。すると、先方から連絡があり「そもそも固定資産税を払っていたことにも気づいておらず、建て屋の存在も知らなかった」という連絡があった。この事例などはまだマシな方で、登記をとって、相続人を探し、各種手続きを司法書士にお願いするなど、手間と費用を考えれば「触らぬ神に祟りなし」で、放置したほうがよいという選択をするのもわからなくもない。
 一方で、この問題に対処する自治体の悩みも深い。2015年に「空き家等対策の推進に関する特別措置法(空き家特措法)」が施行されたことで、助言、指導、勧告、命令、行政代執行を行うことができるようになった。空き家の倒壊によって近隣住民に被害が及ぶ場合など、所有者が不明の場合でも「略式代執行」を行うことができる。しかし、この場合、撤去費用は自治体の持ち出しとなるため、「放置しておけば自治体が処分してくれる」というモラルハザードを誘発する可能性もある。
 結局、このような現状となる原因を生む仕組みを変えていく必要がある。まずは「任意」となっている不動産登記だ。「所有者不明土地問題研究会」が行ったサンプル調査によれば、大都市では6・6%、それ以外では26・6%が最後の登記から50年以上が経過しているということがわかった。登記経過年数別に所有者不明となる割合を見ると、30年未満で21%、30〜49年で37%、50〜69年で62%、70〜89年で79%、90年以上で80%となっている。登記の「義務化」を含めて、誰が現在の土地の所有者か、明確にするための仕組みが必要になる。そして何より求められるのが、所有者のモラルだ。いらなくなったら「放置する」ではなく、土地をどう処分するのかまで責任を持たなければならない。今後「多死社会」となるなかで、所有者不明の土地問題は、ますます深刻化することが予想される。
 都内の自治体担当者は、今後問題となるのは「マンション」だと話す。数十年前に分譲されたマンションは、相続、転売などによって所有者が移転している。老朽化による建て替え、取り壊しといった処置が必要となったときに、どのように合意をとるのか、「考えただけでもゾッとする」と、担当者の表情が物語っていた。(WEDGE Infinity編集長 友森敏雄)

まさに『オーシャンズ11』

実態とかけ離れた登記簿

希薄化する親族関係も要因

政策課題の「盲点」が見えた

資産価値に見合わない負担

 少子高齢化が進めば、後継ぎがいなくなる。職場における若い人材の不足などが懸念されるが、目を住宅や土地に転じれば大都市部でも空き家や空き地が広がりつつある。野村総合研究所の予測によれば2033年には空き家率は30・4%に上昇する。全国の約3戸に1戸が空き家になる計算だ。
(iStock)
 空き家問題で困るのは、相続人がなく持ち主が不明となることである。相続人がいても、手続きを敬遠する例も増えている。もともと家が建っていなかったところも含め、所有者不明の土地が広がっている。法務省が全国10カ所(調査対象約10万筆)の相続登記未了の可能性がある土地を調査したところ、最後の登記から50年以上経過している土地が中小都市や中山間地域で26・6%、大都市でも6・6%あった。
 一方、民間有識者でつくる「所有者不明土地問題研究会」が相続登記されなかったり、所有者の住所が変わって連絡がとれなくなったりした土地を推計したところ、全国で約410万ヘクタールに及ぶという。これは九州を上回る面積である。所有者不明土地はさらに増えると見込まれている。日本社会が「大死亡時代」を迎えるためだ。
 国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、団塊世代が90代となる2040年頃に死亡数が167万9千人でピークを迎え、その後も160万人水準で推移する。現在よりも37万人ほど多い計算だ。団塊世代は高度成長期に地方から大都市部に出てきた人が多い。相続人となるその子供たちの中には、親の出身地に残された相続対象の土地を一度も訪れたことがないという人もいる。親が土地を所有していたことすら知らないというケースもある。
 放置される時間が長くなるほど相続人や関係者が増えるため、問題の解決をより難しくする。所有者不明土地となるのは相続人の間で調整がつかないことも理由だが、ここまで広がったのは人口減少によるところが大きい。人口が減れば人が住まない地域が広がり、家や土地に対する人々の価値観を劇的に変える。登記手続きの煩雑さや管理にかかる負担が、資産価値に釣り合わなくなってきているのだ。
 所有者不明土地の弊害は小さくない。固定資産税などの徴収ができないだけでなく、公共事業や民間の再開発事業の妨げになる。農地の集積や森林の適正管理にも支障をきたす。そればかりか、ゴミの不法投棄や雑草問題を引き起こせば、周辺の住環境が悪化することにもなる。九州を上回る面積になっているのは、国土の発展を揺るがす大問題であろう。「大死亡時代」を迎える前に、国家として対策を講じなければならない。
 そうでなくとも、人口減少に対応するため、これからの日本ではコンパクトな町作りが不可欠となる。政府は幅広い公共目的のために利用できるよう法整備を図る方針だが、人口激減時代とは「公共優先」という考え方がより強く求められる時代に違いない。われわれは国土について根本から考え直す時期を迎えている。(河合雅司「一筆多論」 産経ニュース 2017.08.19

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