「介護移民」受け入れを甘くみるな
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「介護移民」受け入れを甘くみるな

日本で働きながら技術を学ぶ外国人技能実習制度の対象職種に「介護」が新たに加わった。深刻な人手不足が続く介護の現場では期待も大きいが、一方でわが国の移民政策に直結する重大な問題でもある。移民の受け入れを拒否し、労働力だけ確保するという「ご都合主義」の政策で本当に大丈夫か?

日本で働きながら技術を学ぶ外国人技能実習制度の対象職種に「介護」が新たに加わった。深刻な人手不足が続く介護の現場では期待も大きいが、一方でわが国の移民政策に直結する重大な問題でもある。移民の受け入れを拒否し、労働力だけ確保するという「ご都合主義」の政策で本当に大丈夫か?

利するのは「政商」だけ

海外進出のチャンス

改めるべきは「使い捨て」

「上から目線」はもうやめよ

必要なのは「質」の担保

 「どこってどこなの? そうね、どこでもいいわよね」
 2階の奥に広がる大広間で、アジア系外国人とみられる女性が車イスの高齢女性に優しく語りかけていた。
 山梨県甲州市の特別養護老人ホーム「光風園」。JR中央線塩山駅から車で約6分、周囲にブドウ畑が広がる自然豊かな地域にある。光風園は現在、約60人の高齢者が入所し、従業員は約50人、このうち6人がベトナムとインドネシアから来日したスタッフだ。高齢女性と話していたのは、光風園で働くベトナム人女性、ベーさん(24)。外国人特有のイントネーションはあるものの、流ちょうな日本語で、入所者の介護をてきぱきとこなしている姿が印象的だった。
 「介護現場の人材不足が強調されますが、ここは人手には全然困っていないんですよ」
 光風園を運営する社会福祉法人光風会次長の熊谷信利氏が現状を教えてくれた。ベトナムやインドネシアなどと日本による経済連携協定(EPA)に基づき、外国人の受け入れが始まった平成20年から、積極的に外国人スタッフを受け入れてきた。EPAの制度設計にもかかわり、地方の人口減対策にも取り組んでいる理事長、熊谷和正氏の方針だった。和正氏らは、受け入れ当初は入所者やその家族の拒否反応を懸念したが、実際に働き始めれば、言葉の壁があっても予想以上に双方が早く打ち解け、介護スタッフとして十分な戦力になっているという。
 ただ、実際の介護現場の人材不足は厳しさを増している。厚生労働省の推計によると、介護施設での人材不足は2020年までに25万人、2025年までに37万人にのぼる。その解決策の一つとして注目されているのが、外国人労働者だ。今月1日から外国人技能実習制度に介護職が追加され、これまで以上に外国人が介護施設で働くケースが増えると期待されている。
 その一方で、コミュニケーションが中心で高齢者の健康に深くかかわる介護職を、外国人に任せられるのか、利用者に受け入れられないのではないかといったことを不安視する声も少なくない。これまでの実習制度の職種が農漁業や製造業といった非対人に限定されていたのはこうした懸念もあったからだ。さらに、介護現場については働く側も「きつい、汚い、給料安い」の「3K」職場とのイメージが強く、他の仕事に比べて敬遠されがちになっている。
特別養護老人ホーム「光風園」で働くベトナム人のベーさん(左)
特別養護老人ホーム「光風園」で働くベトナム人のベーさん(左)
 光風園のベーさんらもこの現状は知っている。それでも「他の仕事より入所者と話しをする機会が多いだけに、日本語を早く覚えられる」と前向きだ。もちろん、方言や高齢者特有の言い回しなどに苦労することもある。だが、ベーさんらは来日前だけでなく、現在も日本語を熱心に学び、高い語学力を備えているため、目立ったトラブルはないという。
 トラブルを極力抑えられているのは、外国人スタッフの努力だけではないようだ。光風園では、採用担当者が現地に入り、仕事内容などを正確に説明できるようベトナム語などの外国語を習得し、適した人材選びを進めている。また、受け入れた外国人スタッフが効率よく仕事を覚えられるような研修などに時間をかけ、じっくりと学べるシステムになっている。
 こうした受け入れや人材育成の態勢が整った光風園は、成功例の一つであり、モデルケースといえるだろう。ただ、介護現場ではないが、2013年3月、広島県江田島市のカキ養殖加工会社で勤務していた中国人の実習生が経営者ら9人を殺傷する事件があった。また、今年7月には、熊本県警が20代の女性を刃物で襲って負傷させた強盗殺人未遂容疑でベトナム人実習生を逮捕するなど、トラブルは相次いでいる。警察庁によると、全国の警察に摘発された実習生は、統計を開始した2012年に331人だったが、2016年に4倍以上となる1387人にまで増加。この5年間に1万人以上が失踪しているという。一方で受け入れ側の問題も深刻だ。厚労省の同年の調査で、賃金不払いや過重労働など労働基準法違反が認められた事業者は約4千にのぼっていることが判明している。
 今後、介護人材不足を補う目的で受け入れが増えれば、同様のトラブルが増加することが予想される。それだけに、実習を望む外国人と受け入れ側の双方が「質」を担保できるよう努力しなければ、新たなトラブルの火種になりかねない。(iRONNA編集部、中田真弥)

あなたが歳をとったとき…

「移民受け入れ」国益に繋がるか

外国人労働者のコストとリスク

大勢の人が行き交うJR渋谷駅前のスクランブル交差点。50年後の日本の人口は…(寺河内美奈撮影)
 国立社会保障・人口問題研究所が描いた日本の未来図は、5年前の推計で2048年とした総人口1億人割れの時期を2053年へと5年遅らせるなど、多少は明るい姿となった。だが、下り坂の斜度がやや緩やかになっただけで楽観は禁物だ。推計が前提とした2065年の合計特殊出生率は1・44と相変わらず低水準である。少子化の流れが根本的に変わるとみているわけではない。
 しかも、人口減少スピードが和らぐとした根拠には課題がある。第1の根拠は晩婚・晩産に伴う30~40歳代の合計特殊出生率の上昇だが、30代後半以降の初産では「2人目を産もう」とはなりにくい。これでは出生数は下げ止まらない。
 2つ目の根拠は平均寿命の延びだ。出生数が多少持ち直すため、2065年の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は5年前の推計の40・4%から38・4%に改善するとした。だが、平均寿命の延びは高齢者数の増加を意味する。その分、高齢者向けサービスの量も増え、社会保障財源や介護職などの人材確保も求められる。
 3つ目は外国人の流入だ。年間7万人程度を見込むが、社会情勢や国際情勢の影響を受けやすい。周辺各国も少子高齢化が進んでおり、皮算用通りにいくとはかぎらない。今後の日本が、人口減少を前提とせざるを得ないことに変わりはない。喫緊の課題は働き手の確保だ。
 安倍晋三政権は女性や高齢者が働きやすい仕組みづくりに取り組んでいるが、すでに人手不足に直面している企業などからは「外国人労働者の解禁」を求める声が強まっている。ただ、言葉の壁や社会保障、治安対策など社会コストは小さくない。日本人が減るのに受け入れ続ければ、「国のかたち」は大きく変容する。慎重な対応が不可欠である。女性や高齢者、外国人の活用もいいが、無理に現在の労働力の規模を維持するのではなく、働き手が減っても成り立つよう社会の作り替えを急ぐべきだ。コンパクトな町作りや、「24時間型社会」からの脱却、国際分業、人工知能(AI)の開発などを進めれば、社会全体で必要となる労働力そのものを減らすこともできよう。
 いかに「戦略的に縮む」のか。「国のかたち」を守りつつ、小さくとも豊かな国を実現するには、国民の知恵と覚悟が問われる。(産経新聞論説委員・河合雅司、産経ニュース 2017.4.11
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