日本人が知らないイスラムのタブー
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日本人が知らないイスラムのタブー

イスラム教の戒律に従うことを意味する「ハラル」に注目が集まっている。日本でも公的機関や飲食店を中心にハラル市場を狙う動きが目立つ。ただ、ニセ認証や便乗商法といった問題も表面化しており、ハラルへの正しい理解が受け入れ側にも求められている。現状を取材した。

イスラム教の戒律に従うことを意味する「ハラル」に注目が集まっている。日本でも公的機関や飲食店を中心にハラル市場を狙う動きが目立つ。ただ、ニセ認証や便乗商法といった問題も表面化しており、ハラルへの正しい理解が受け入れ側にも求められている。現状を取材した。

「宗教」と「食べ物」は奥深い

「ハラル」って一体何?

宗教的タブーに杓子定規になるべからず


 「自分の問題に振り回されるんじゃない」。イギリスに留学していた2年前、住居の家賃をめぐってトラブルになり右往左往していたとき、ムスリム(イスラム教徒)の友人の男性からこう言われたことがある。私にとってはかなり深刻だっただけに腹が立ったが、何が起きても泰然としている友人の根底にイスラム教の精神があったのだろう。些細なこととはいえ、異なる宗教観による摩擦を身もって感じる経験となった。
 そもそもイスラム教は日本人にとって身近なキリスト教や仏教と違い「とっつきにくい」「よくわからない」「怖い」というイメージが先行しがちだ。普段の生活に影響する教義が多数あることが主な要因かもしれない。食べ物に関する規律「ハラル」もそのうちの一つだろう。
 ハラルとは、アラビア語で「合法な」という意味で、イスラムの教義上食べたり使ったりしてよいものを指す。近年日本でもイスラム圏からの観光客増に伴い、食のハラル対応が観光地を中心に進み、認知されつつある。ムスリム人口が多いマレーシアからは今年9月までに約28・3万人、インドネシアからは約24・4万人の観光客が日本を訪れており、今後も需要増が見込まれている。
慶應義塾大学で開かれたイフタールの様子=2017年6月、神奈川県藤沢市
慶應義塾大学で開かれたイフタールの様子=2017年6月、神奈川県藤沢市
 では日本のムスリムはどう対応しているのだろうか。今年6月、慶応大の湘南藤沢キャンパスで「イフタール」と呼ばれるムスリムの食イベントがあると聞き、取材した。イスラム教では、「ラマダーン」と呼ばれる一カ月間、日が昇っている間断食を行う。そしてイフタールは、日没後初めて食べる食事のことで、家族や友人が集まり、その日一日無事に断食できたことを祝う。
 「何を食べてもよくて、何を食べてはいけないという表面的なことではハラルを本当に理解することはできない」。イフタールに参加していた日本人男性は、断食もハラルも宗教上の敬虔(けいけん)さの表れだと力説した。この男性はアラビア語を勉強し始めたことを機に、イスラム教に入信したが、日本での食生活はやはり苦労が多いようだ。宗派によっては、教義で禁止されている酒類や豚肉などについては、これらを提供する店や飲食する人と同席することも許されない。男性自身は酒や豚肉は口にしないが、同僚との食事に同席することや店を利用することは割り切っている。実際に中華料理店などへ行くと食べられるものはほとんどないという。
 一方、学校など公共性の高い機関も一筋縄にはいかない。ベトナムや中国といった外国籍を持つ児童が多い横浜市立飯田北いちょう小学校は、食物アレルギーと同様の対応をしている。例えば、かつてムスリムの児童がいた際、給食の献立表で使われている肉をマーカーで色分けして保護者に渡していた。そして各家庭の希望に応じて、食べられないおかずがある場合は、弁当を持参してもらう。管理上の理由から、持参した弁当は職員室で保管し、給食の時間になると担任が教室まで運ぶという。
 イスラム教で問題になるのは主に豚肉だが、各家庭や宗派によっては鳥や牛、羊などの肉も食べられないことがあり、対応はより複雑になる。同校の国際教室を担当している菊池聡氏によると、2014年に飯田北小学校と合併前のいちょう小学校では、給食のハラル対応を行っていたこともあるという。完全とは言えなくとも、ムスリムの保護者と話し合い、豚肉を入れる前におかずを取り分けておいたり、フライパンを分けるなど、学校側ができることを説明し、了承を得た上で対応していた。それでも対応できない児童については、弁当を持参していた。しかし、合併後は、調理室のスペースや調理員不足といった関係で、ハラル用に分けて調理することが難しくなり、現在のような食物アレルギーと同様の対応をとるようになった。いずれも学校の状況や児童の家庭の方針に応じて柔軟に対応しているが、ハラルを意識した学校は極めて少ないのが現状だ。
 一口にハラルといっても、捉え方も対応の仕方も多様である。実際、公共機関や自治体が「ハラル対応」を進めることに対して、政教分離の観点から否定的な意見もある。だが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、イスラム圏からの観光客はさらに増加することが予想される。宗教観の違いによる摩擦は思わぬ事態を招きかねない問題だけに、さらに議論を深めていくべきではないだろうか。(文と写真、iRONNA編集部、嶋諒子)

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