人はなぜ競馬に魅せられるのか

テーマ

人はなぜ競馬に魅せられるのか

菊池寛や吉川英治といった文豪の多くが競馬をこよなく愛したことはよく知られている。疾風のごとく駆け抜ける馬の姿に、ギャンブルにとどまらない魅力を感じるのだろうが、なぜ、これほどまで人の心をつかむのだろうか。まったく興味のない方が多いことも承知の上だが、今回は文豪たちの視点で競馬の魅力を探ってみた。

菊池寛や吉川英治といった文豪の多くが競馬をこよなく愛したことはよく知られている。疾風のごとく駆け抜ける馬の姿に、ギャンブルにとどまらない魅力を感じるのだろうが、なぜ、これほどまで人の心をつかむのだろうか。まったく興味のない方が多いことも承知の上だが、今回は文豪たちの視点で競馬の魅力を探ってみた。

馬のスピード感を投影した人生

華やかなおとぎ話に魅せられて

天才牝馬に夢をみる

 2017年4月、牡馬クラシック「皐月賞」で69年ぶりの牝馬優勝に挑戦した馬がいた。その名はファンディーナ。なんとも魅惑的な響きだと思ったら、タイ語で「よい夢を」という意味を持つのだという。9馬身差をつけたデビュー戦から3連勝し、「怪物」と呼ばれた。人は圧倒的なものに心を奪われ、憧れる。首をリズムよく振りながらぐんぐんと後続を突き放し、まるでこのまま飛んでいってしまいそうな彼女の走りに心を奪われた。
 ハンデがあるとはいっても、大舞台での男馬への挑戦が、さらに彼女への思い入れを強くした。人間界の男社会では、女だからと配慮はあってもやはり生きにくい部分も多い。ファンディーナが牡馬を打ち負かすところを見てスカッとしたい。正直、そんな気持ちもあった。皐月賞で1番人気となったファンディーナは直線で一瞬、先頭に立つが最後は失速してしまう。結果は7着だったが、見せ場があっただけに次のレースは期待できるのではないか。もっとこの馬を知りたいと思った。
 「ファンディーナの挑戦を取材したいのですが」。恐る恐る白岩賢太編集長に志願した。スポーツ記者でもない素人が競馬の取材をして意味があるのか。そんな不安も含めて「行ってこい」と快諾してくれた彼も実は、ウマ好きである。
 栗東トレーニングセンター(滋賀県栗東市)に到着したのは午前5時30分。ファンディーナは9月の牝馬レース「ローズステークス」を直前に控え、最終追い切りを行っていた。調教を終えた彼女に会わせてもらったが、特段警戒もせず、静かにじーっと見つめられた。堂々としていて、とても賢そうだ。
 「実は、あんまり面白い性格はしていないんです。人懐っこいわけではないし、かといって人に敵意むき出しでもない。いい距離を保って人と接する馬ですね」。そうファンディーナの素顔を語るのは高野友和調教師。ずっと疑問だった「馬が走るモチベーションは何なのか」という質問もぶつけてみた。
 「そこは分からないですね。走る能力があるのに急に走らなくなる馬もいます。競馬やトレーニングでつらい思いをするのが嫌だと思ってしまうと走らなくなってしまいます。走るのを苦ではない状況にしていくのが人間の仕事です。ファンディーナは、いまはまだ分かっていないと思いますが、今後楽しく走ってくれるかどうかですね。実際、皐月賞は苦しかったと思うので、尾を引いていないといいなと思います」
ファンディーナと高野友和調教師=2017年9月15日
ファンディーナと高野友和調教師=2017年9月15日
 秋の牝馬限定レース「ローズステークス」で6着、「秋華賞」は13着と順位を落としてしまう。そして、スポーツ紙の片隅に見つけた「ファンディーナ放牧」の文字。その後、再び彼女に会うチャンスが訪れた。秋華賞から1カ月後の11月18日、滋賀県甲賀市にある牧場「グリーンウッド・トレーニング」に向かった。そこには、次の戦いに向けて調教するファンディーナの姿があった。牧場というと馬を休ませるイメージがあったが、そこは1000メートルの周回コースと屋根付きの坂路を備えた「外厩」のトレーニングセンター。ファンディーナ陣営は、次走に阪神競馬場で12月9日に行われる1600メートルのオープンレース「リゲルステークス」を選んだ。同牧場の大西勝志厩舎長はその理由をこう語る。
 「ファンディーナの走りは独特で、背中のバネを使って、下に下に頭を持っていくヒョウのような走り方が武器なんですが、2000メートルの秋華賞でも、最終4コーナーで頭を上げて失速してしまったこともあり、距離短縮を考えました」
 牧場のファンディーナは、軽快な足取りで調教に向かい、坂路2本の調教もやる気がみなぎっているように見えた。調教を終え、ファンディーナの脚に冷却剤を丁寧に塗っていた担当者の吉田勝太さんも「頭が良くて手がかからない馬です」と愛おしそうにファンディーナを見つめる。
 「同世代のG1で優勝した馬にはすごいなと敬意を持ちますが、いまはファンディーナという馬のパフォーマンスを取り戻してあげたい。その一点です」そう語った高野調教師の言葉も忘れられない。一頭の馬が背負うたくさんの夢や思い。その重みに触れた取材だった。(文と写真、iRONNA編集部、川畑希望)

ファンディーナに魅せられた私

的中を夢見た男

伝説は語り継がれる

人はなぜ競馬に魅せられるのか