「エルサレムが首都」トランプの論理
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「エルサレムが首都」トランプの論理

中東は再び「世界の火薬庫」に逆戻りするのか。トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言し、波紋が広がっている。「世界の常識」を覆す決定に各国は反発を強めるが、なぜこのタイミングだったのか。今後起こり得る中東情勢への影響も踏まえ、トランプの真意を読み解く。

中東は再び「世界の火薬庫」に逆戻りするのか。トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言し、波紋が広がっている。「世界の常識」を覆す決定に各国は反発を強めるが、なぜこのタイミングだったのか。今後起こり得る中東情勢への影響も踏まえ、トランプの真意を読み解く。

元特派員が読み解く

パウエル氏辞任発表の波紋

頭の中を想像してみる

遠い地域の出来事ではない

「唯一神教」の聖地の使命

 予想されていたことだが、現実となってきた。中東アラブの各地でエルサレムをイスラエルの首都に認知すると発言したトランプ米大統領に抗議するデモが発生し、エルサレムやガザ地区で一部暴動となり、死傷者が出ている。トランプ大統領はツイッターで自身の発言を弁明している。中東から遠いホワイトハウスで服務する大統領にとって、「エルサレムがイスラエルの首都」発言はメキシコ国境線に壁を作るといった選挙公約と同じで、多くある公約の一つにすぎなかったかもしれないが、中東に住むアラブ人たちは自分たちが住む家屋に爆弾を投じられたようなショックを受けたわけだ。
トランプ米大統領がユダヤ教の聖地「嘆きの壁」を訪れた際の様子を描いて非難する絵=パレスチナ自治区ベツレヘム
 トランプ大統領の発言で最大の受益者はもちろんイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相だろう。汚職容疑で司法の捜査の手が迫ってきている首相にとって、トランプ大統領の発言は文字通り、クリスマス?プレゼントかもしれない。一方、最大の被害者はやはりパレスチナ人だろう。トランプ大統領の発言はイスラエルとパレスチナの「二国家和平案」への「死の接吻」を意味するといった声すら聞かれる。
 ニッキー・ヘンリー米国連大使は8日、緊急招集された安保理会議で、「米国の決定は中東の和平目的の実現を前進させるものだ」と主張したが、多くの安保理メンバーは、「国連決議に違反する決定」という声が支配的だった。ウィーンのホーフブルク宮殿で開催された欧州安全保障協力機構(OSCE)閣僚会議でロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、「トランプ大統領の発言は過去の中東和平に関する全ての合意内容を踏みにじるものだ」と厳しく批判しているほどだ。
 エルサレムは唯一神教であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地として信者たちにあがめられきた。そして唯一神教ゆえに、他宗教、他宗派の主張を拒否し、自身の信仰、教義、聖地を絶対的に信奉する。3000年の歴史を持つユダヤ教を筆頭に、2000年歴史のキリスト教、そして1300年の歴史を持つイスラム教はその点で全く同じだ。「信仰の祖」アブラハムから始まったユダヤ教、キリスト教、イスラム教は唯一神教だが、神学者ヤン・アスマン教授は、「唯一の神への信仰( Monotheismus) には潜在的な暴力性が内包されている。絶対的な唯一の神を信じる者は他の唯一神を信じる者を容認できない。そこで暴力で打ち負かそうとする」と説明している。それにゆえに、繊細な配慮と対応が必要となるわけだ。
 バチカン放送(独語電子版)に興味深い記事が掲載されていた。エルサレム旧市街南西部の「シオンの山」にあるベネディクト派修道院のニコデムス・シュナーベル修道院長へのインタビュー記事だ。同修道院長は、「エルサレムにはさまざまな宗派を信じる人々が住んでいる。非常に複雑で込み入った街だ。それだけに、繊細な配慮と対応が不可欠な街だ。まるで蜘蛛の巣のように入り組んでいるのだ」という。
 同院長によると、エルサレムにはキリスト教関係で50の宗派の信者たちが住み、イスラム教関係ではスンニ派、シーア派、イスラム改革派のアフマディーヤ派の信者らが住み、ユダヤ教ではアシュケナジム系(ドイツ・東欧出身)、セファルディム派(スペインやポルトガル出身)、そしてイエメン・ユダヤ派などに属するユダヤ人がいる。ユダヤ教関係者は、「エルサレムは3000年前からユダヤ教の聖地だ」と主張しているが、考古学の調査によると、少なくとも4500年前に住んでいた異教徒カナン人の聖地だったことを証明する遺物がエルサレムから発見されているのだ。
 すなわち、エルサレムは三大唯一神教の聖地となる前に、異教信仰の聖地であったわけだ。この事実は大切だ。エルサレムと呼ばれる街の多様な歴史が浮かび上がるからだ。
 修道院長は、「エルサレムが単にユダヤ教の聖地だけとなれば、エルサレムは退屈な街となってしまう。さまざまな宗派の信者たちが自由に行き来するエルサレムこそ最もエルサレムらしいのだ」という。確かに、唯一神教の聖地が多様な歴史を持つエルサレムと呼ばれる街にあるという事実は一見奇妙な組み合わせである。しかし、唯一神教の信仰とエルサレムの多様性は本来、不可分な関係にあったのではないか。唯一神教の信者たちが結集し、互いに交流を図り、時には競争することもあっただろうが、エルサレムはその多様性をこれまで失うことがなかった。
 21世紀に入り、多様性は高く評価され、それぞれが競ってその独自性を発揮できる時代圏に生きている。宗教の世界も多様性を発揮する一方、共存を実現することで将来の統一世界の姿をわれわれに示す使命を有しているのではないか。「エルサレムは神に召命された街」(シュナーベル修道院長)という発言はエルサレムの本質を言い当てているように感じる。(長谷川良「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017.12.10

相次ぐ激しい抗議デモ

反米の嵐が吹き荒れる

「ロシアゲート」隠し?

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