沈黙の原発  詭弁と無策が国を滅ぼす

沈黙の原発 詭弁と無策が国を滅ぼす

師走の衆院選は最終盤を迎えたが、いまだ盛り上がりに欠けている。「アベノミクス」だけが注目争点と言われる中で、特にかすんでいるのが原発政策である。世論の反対が多いテーマだけに各党とも歯切れが悪い。争点化を避ける選挙戦にあえて直言します。原発なくして日本の未来はありません。

大江紀洋の直言

 総選挙で、エネルギー問題が争点化していない。
 各党の公約を見てみると、いつか見たような文言ばかりが並ぶ。事故から3年経ったが、いかに建設的な議論が行われてこなかったかを示している。
 多くの党が、冒頭1~2ページでまとめる要旨に、エネルギーや原子力をテーマにいれていない。争点化させても票にならないと見切っているからだ。裏返せば、有権者の側も、原子力の議論に飽きてしまったということかもしれない。「原発ゼロになればいいなと思ったが、なかなか現実的ではないようだ」「かと言って今すぐあっちもこっちも再稼働となったら、事故が起きそうで怖い」。このあたりが、もっとも共有されている感覚だろうか。
 「原発止めてもなんとかなってるじゃん」。こういう意見もよく聞く。実際はなんとかなっていない。現状の値上げなら裕福な家庭ではなんともないかもしれないが、悲鳴をあげている中小企業は多い。そもそも、現状の値上げは、本来必要な値上げより無理に圧縮されている。原発ゼロに見合う負担を、私たちはしていないのだ。戦う気力も余裕もない電力会社の内部留保を吐き出させているだけだ。原発停止による燃料費増は年間3~4兆円と言われているが、この負担は日本経済の余力を確実に蝕んでいる。
 どの党も、見栄えのいい再生可能エネルギーの推進は掲げているが、既に固定価格買取制度は破たんしている。太陽光は増えすぎて、送電網に入らない。すべて入れられたとしても、原子力を代替することはできないし、バックアップの火力が要る。再エネ推進を掲げるなら、少なくとも、送電網整備に予算を突っ込むと書くべきだが、そんな党は見当たらない。送電網整備は巨額の資金を要するからだ。
 現状、辻褄合わせでなんとかなっている(ように見える)から、意思決定は先に延ばしておこう。脱原発依存とかフェードアウトとかいう考え方はダメな会社の経営改善計画のようなもの。
 資源がなく経常黒字も失った国のエネルギー戦略がその程度でいいのだろうか。危機が目前に迫るまでは思考停止を続けるのが日本人なのか。
 民主党の公約を見る。民主党は、「原発ゼロ」を書き込めなかった、あの夏の閣議決定がすべてだ。
  2030年代に原発稼働ゼロを可能にするよう、あらゆる政策資源を投入する――。この言い回しは、あの「国民的議論」を経て決定された「革新的エネルギー・環境戦略」と同じ。その非現実性をあれこれ突っ込まれても無視し続けた民主党政権は、最後にアメリカから「じゃあ、既にあるプルトニウムどうするの?」と問い質され、閣議決定できなくなった。政権を担う責任政党として、2030年代原発ゼロはオーソライズできなかったのだ。なぜ、同じ文言を平然と公約に書き込んでいるのか。政権を担う責任感はありませんと自白しているのか。
鹿児島県薩摩川内市の九州電力川内原発
 2030年はおろか、すぐにでも原発ゼロと書く党については、評価しようがない。突然無価値になる50基を超す民間資産をどう処理するのだろうか。温暖化問題を議論するCOPが開かれているこのときに、化石燃料にほぼすべてを依存する国家になりますと世界に宣言できるならやってみてほしい。再エネで代替するという小泉流の詭弁は聞きたくない。
 しかし、もっとも問題があるのは自民党だ。「重要なベースロード電源として活用」とはどういうことなのか。子どもでもわかる言葉で書くべきだ。なぜ政権をとって2年もたつのに、エネルギーミックスを示すことができないのか。
 「規制委が安全と認めたものは再稼働」。この詭弁もいいかげんにしてほしい。どの程度原子力を使うかは政治が決めることで、この原子炉は危険だと判断したら停止命令を出すのが規制委だ。
 2013年の参院選。それまでは、衆議院と参議院がねじれていた。その状態で原子力政策やエネルギー政策を打ち出していくのは難しいというのは理解できる。参院選でねじれを解消して安定政権になれば、エネルギー政策をまっとうなものに再構築してほしいという願いから弊誌では2013年9月号に原子力特集を組んだ。
 しかし、安定政権のはずの安倍政権は、この1年間、エネルギー政策についてほぼ何もしなかったといっていい。あまりに投票に向かう足取りが重いので、ここに昨年の特集記事の一部を公開したい。
   

変わってない問題点

  • 民主党のエネ政策をリセットしない訳

    民主党のエネ政策をリセットしない訳

    民主党政権のエネルギー政策は、実質的に継続されたままだ。その問題点を列記する。

原発に無駄はない?

  • 原発を推す短・中・長期の合理性

    原発を推す短・中・長期の合理性

    原子力依存度を下げていくべきという論調は多いが、原子力に合理性はないのだろうか。

原発をゆく

 本州最北端、下北半島の先端に位置する青森県大間町。「大間のマグロ」で知られる漁業の街で今、電源開発(Jパワー)の大間原発の建設が急ピッチで進む。計画中の原発敷地内のほぼ中央、炉心予定地からは約300メートルの場所に小さなログハウスがあった。
  「あさこはうす」と手書きされた看板がひときわ目につく。ログハウスの所有者は小笠原厚子さん(60)。地元では彼女のことを知らない人はいない。10年前に他界した実母が残したこの家を今でもたった一人で守り続ける。「鉄線の向こう側が原発って信じられますか」。笑顔で話しかけてくれた小笠原さんの言葉にどう答えたらいいのか、一瞬戸惑ってしまった。
 彼女の自宅と原発敷地との境界には有刺鉄線が張り巡らされ、鉄線の先には巨大な構造物が見える。ここへたどり着くには幹線道路からたった1本の砂利道を進むしかなく、とても人が住めるような場所とは思えない。「この道はね、Jパワーがつけたものなの。毎日、朝昼晩とあっちの人が監視に来るし、プライベートも何もありません」
 他界した小笠原さんの母、熊谷あさ子さんは建設予定地の地権者157人の最後の1人だった。「海と畑があれば生きていける。土地を手放すな」。戦争経験者で漁師だった夫の言葉を守り、あさ子さんはJパワー側が求める買収に応じなかった。脅迫めいた手紙や嫌がらせの電話も数えきれないほどあったが、それでも頑なに拒み続けた。
 Jパワーが買収を断念したのは2004年。15年近くにわたった交渉継続を諦め、炉心位置を200メートルずらした計画を再申請することで建設推進を急いだ。
 「お互いに意見を言い合いダメなものはダメだと言える対等な状況になってほしい」。小笠原さんは当時を振り返り、そう語った。だが、唯一の水源だった小川はJパワー側に止められ、現在は全国の支援者から送られるミネラルウオーターで生活用水を賄う。風力の自家発電器もつい最近壊れ、明かりはランプで灯す。だれが見たって不便だと感じるこんな生活を、小笠原さんは1年の3分の2以上も続けている。
 庭ではイヌやネコ、ニワトリ、カモが元気に走り回る。「将来はヒツジやヤギも放して、ここを子供たちが自然とふれあえる場所にしたいの」。ささやかだが、小笠原さんの大きな夢でもある。
  大間原発は使用済み燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜた混合酸化物(MOX)燃料を全炉心で使用する世界初の商業炉だ。最新式で信頼性が高い半面、稼働実績がないことなどを不安視する声もある。Jパワーは年内に新規制基準への適合性審査(安全審査)を原発規制委員会に申請、平成32年12月の工事完了、33年度ごろの運転開始を見込んでいる。
 その計画に待ったをかけたのは、津軽海峡を挟んで対岸にある北海道函館市だ。今年4月、「事故が起きれば市民に甚大な被害をもたらす」として、国やJパワーを相手取り、建設中止や原子炉設置許可の無効確認などを求める訴えを東京地裁に提訴した。
 大間原発から函館市までは約25キロ。原発事故に備え地域防災計画の策定を求められる緊急時防護措置区域(UPZ)に当たる。市側は、福島第1原発事故の影響を引き合いに出した上で「建設差し止めは住民の生命と生活を守る地方自治体として当然の措置」と主張する。
函館と大間は津軽海峡フェリーが1時間半で結び「青森県函館市」「北海道大間町」とお互いを揶揄するほど日常的に人と物が行き来する。それだけに市民も複雑な思いで裁判の行方を見守る。
  函館市の会社員、平田勝己さん(63)は「電気料金が上げられるほうが困るべ。とっとと建設しちまったらいいべ」と建設差し止め訴訟を起こした行政の対応に不信感を募らせたが、別の男性は「いまさら国のやることだし何を言うても無駄だべ」と無関心を装った。過疎が進む町にとって、原発マネーがもたらす経済効果は計り知れない。多くの住民が「マグロしかない」と話す大間町にとっても、きっと例外ではないだろう。
 住民の安全と地域振興の狭間に揺れる本州最北端の町。こんな現状を小笠原さんはどんな思いで見つめているのか。
 「正直、大変だなあと思います。行政が住民の命を守るのは大事なことだし、本当に大切なものは何か、司法が理解してくれたらいいんだけどね」。国論を二分するわが国の原発政策に、立地自治体の小さな叫びが届く日は来るのだろうか。
(iRONNA編集部 溝川好男)

函館市議会による大間訴訟会見

危機感が教えた真実

  • なぜ環境保護派が原子力を支持するのか

    なぜ環境保護派が原子力を支持するのか

    環境活動家がエネルギー事情を知るに連れ、原発推進派に転向していく様を描いたドキュメンタリー映画「パンドラの約束」。同作品を手掛けたロバート・ストーン監督もそんなうちの一人だ。ストーン監督に原発支持に変わった理由を聞いた。

化石燃料に頼り切り

 全国10電力会社の燃料費は、東日本大震災前の平成21年度は計3兆544億円だったが、震災後の24年度は7兆795億円と2・3倍に達した。25年度は7兆7310億円。現在も年4兆円近い国の富が無駄に海外に流出している。
 多くの電力会社は経営危機に追い込まれた。電力10社の24年度決算の最終赤字は計1兆5920億円。やむなく各社は電気料金値上げに踏み切ったが、これに伴う値上げドミノは企業や国民生活を圧迫し、経済再生の大きなブレーキとなっている。
沈黙の原発  詭弁と無策が国を滅ぼす

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