小澤一郎(サッカージャーナリスト)

 試合後のFWネイマールの号泣ぶりが、ブラジルの苦労とエースの苦悩を物語っていた。

 今大会のブラジルは数ある優勝候補の中でも「本命」であり、南米予選での勝ち上がりと直前の親善試合を見ても、死角や弱点が少しも見えないほどの強さと安定感を披露していた。

 それだけに初戦のスイス戦での引き分け発進は世界中を驚かせた。事実、ブラジルの引き分けスタートは、1978年大会以来40年ぶりだ。ここ9大会連続で初戦勝利を飾っていたのだから、引き分けスタート自体がブラジルにとっては負けに等しいネガティブなニュースだった。

 スイス戦ではまた、ケガから復帰したネイマールのキレのなさ、パフォーマンスの悪さも目立った。大会直前のクロアチア(3日)、オーストラリア(10日)との親善試合では、ともにゴールを決めるなど復調をアピールしたが、スイス戦では強引なドリブル突破からのボールロストが何度もあった。

 初戦後には再びケガやコンディション悪化のニュースが流れ、このコスタリカ戦前の出場も危ぶまれた。結局スタメンにはネイマールの名前もあり、特にコンディション面での仕上がりには注目が集まった。

 対するコスタリカは、初戦のセルビア戦に敗れたとはいえ、「5−4−1」と後方に人数と重心を置くシステムで堅守速攻を打ち出すスタイルで、この日もブラジル相手に見事な戦いを見せるのである。

 日本においては「ボールポゼッション(パスサッカー)=善」、「引いて守る=悪」というイメージや価値観が何となく根底に根付いているのだが、サッカーにおいては「絶対に勝てる」システムや戦術は存在しない。であるからこそ、チームや監督が採用するシステム、戦術の狙いを理解し、「狙いが戦いでうまく出ている」か「出ていない」か、という機能性を検証することが大切だ。

 その視点で見れば、コスタリカがブラジル相手に用いたシステムと戦術は「機能していた」といえる。自陣で5−4のブロックを敷きながらも、ボールホルダーに対しては近い選手が躊躇(ちゅうちょ)なくアプローチに出て行って自由を奪い、「サイド<中央」という優先順位でブラジルのボール循環を外に追い出しながらサイドで数的優位を作ってうまく対応した。
ブラジル―コスタリカ 試合終了間際、ゴールを決め喜ぶブラジルのネイマール。右はコスタリカのGKナバス=サンクトペテルブルク(共同)
ブラジル―コスタリカ 試合終了間際、ゴールを決め喜ぶブラジルのネイマール。右はコスタリカのGKナバス=サンクトペテルブルク(共同)
 そうして、サッカーにおいて90分守り続けることが困難であることも理解した上で、特に攻撃重視となるブラジルの左サイドバック、マルセロの背後のスペースを突くカウンターを序盤から意図的に繰り出したのである。しかも、「決定機」という意味では、ブラジルよりも先にコスタリカが前半13分に作っている。

 マルセロのサイドを攻略したMFガンボアからのクロスに、MFボルヘスがゴール前で完全フリーのシュートを打つ。ミートせず惜しくも枠を外れたが、決まっていればまた違った試合展開と結果が待っていたはずだ。

 試合のスタッツ(データ)上、ブラジルが試合を「圧倒」したのは事実だ。ボール支配率は「66%対34%」、シュート数「23本対4本」、枠内シュート数「9本対0本」と全てブラジルに軍配が上がっている。