田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会、日本代表はセネガルと引き分け、グループリーグの勝ち点を4とした。セネガルに2度も先行を許しながらも、その都度激しく敵陣に切り込んで同点に追いついた。ひいき目にみなくても「勝てた試合」だったかもしれないが、本当に日本代表は強いな、という素朴な印象を強くした。

 W杯は各国を熱狂させるが、日本でも同様である。熱狂には、純粋にサッカーそのものを楽しむものもあるが、他にも重要な「熱視線」というものがある。その一つが、W杯がもたらす経済効果への熱視線である。

 W杯が近づくと、運営組織やシンクタンクなどから恒例行事のように、「W杯開催によって生み出される経済効果は○○億(兆)円」といった予測が発表される。もちろんW杯だけに限らず、オリンピックのような国際的なスポーツイベントから特定チームの優勝まで、さまざまな経済予測が行われている。今回のW杯でも、ロシアの組織委員会が2013年から2023年の10年間で約3兆円の経済効果に達すると公表している。

 ところで、そもそも「経済効果」とはいったいなんだろうか。これは厳密に説明すると結構大変なのだが、簡単に言うと、W杯というイベントで生じる「追加的需要」が経済全体でどれだけ需要を増やしたかを計測するものである。

 W杯について考えるときに重要な追加的需要とは、一つは競技場やその周辺のインフラへの投資、そしてもう一つは内外の観光客がもたらす消費があげられる。前者の競技場やインフラの整備は、ロシア政府の支出によって生み出される経済効果で、別名「乗数効果」というものだ。

 W杯のスタジアム建設や周囲のインフレ整備のための公的な支出を行うと、この支出によって公共事業に従事した人たちが収入を得る。この収入の一部は他の財やサービスの購入に向けられる。さらにこれらの財やサービスを販売した人たちの所得は別な財やサービスの購入に向かう。このように、一連の過程が繰り返されることで、始めに支出された公共投資額をはるかに上回る規模の経済効果が実現されるというのが、この乗数効果である。

 ただし、公共投資で大会の運営期間中は黒字経営でも、大会が終わってみると設備を維持するために膨大な維持費用を要してしまうこともある。かえって、地域経済を圧迫してしまう可能性もあるのである。
サウジアラビアに大勝し喜ぶロシアサポーター=モスクワ(共同)
サウジアラビアに大勝し喜ぶロシアサポーター=モスクワ(共同)
 もう一つの需要、観光客の消費はどうだろうか。国内の観光客の落としていくお金が本当にロシア経済に追加的な需要を生み出すかどうかは、ロシア経済の動向に大きく依存している。

 ロシアの消費者が自分たちの収入が思わしくないと判断したのであれば、W杯で使った分を他の支出を切り詰めることでしのぐかもしれない。そうなると、国内消費はプラスマイナス、両方の面を考慮に入れなければいけないだろう。

 現在のロシア経済はそれほどいい状況ではない。ウクライナ問題に端を発した経済制裁や原油価格の低迷でここ数年は経済が大きく減速していたからである。