藤江直人(ノンフィクションライター)

 ペロリと出した舌には、どのような意味が込められていたのだろうか。運を持っている自分をアピールしたかったのか。あるいは、散々のように浴びせられてきた批判への、ちょっとした意趣返しの思いも込められていたのだろうか。

 セネガル代表に1点を勝ち越された瞬間だった。日本代表を率いる西野朗監督は、スタンバイさせていた交代選手をFW岡崎慎司(英、レスター・シティ)からMF本田圭佑(メキシコ、パチューカ)へと代えた。

 岡崎を投入する意図は、前線からのプレスを強化して、1-1のまま逃げ切ることも視野に入れていたはずだ。翻って本田を先に投入した狙いは明白だ。点を取って来い。追いつき、そして追い越せ。そして、「4番」がピッチに入って6分後の後半33分、歓喜の瞬間が訪れる。

 右サイドからFW大迫勇也(独、ベルダー・ブレーメン)がクロスを入れる。本田に続いて3分前に投入されていた岡崎がつぶれたことで、相手GKがうまく反応できない。逆サイドへこぼれたボールに、前半34分に一時は同点に追いつくゴールを決めていたMF乾貴士(スペイン、レアル・ベティス)が追いつく。

 ゴールラインぎりぎりから、マイナス方向へワンタッチでクロスが折り返される。すぐに立ち上がった岡崎が再びつぶれたことで、相手GKも体勢を整えられない。果たして、ゴール前の密集地帯をすり抜けてきたボールは、反対側となる右サイドへ詰めてきた本田の目の前に転がってきた。

 決して簡単なシュートではなかったはずだ。パスにスピードがあったうえに、本田の目の前で微妙に弾んでいた。それでも落ち着き払った32歳は、利き足の左足のインサイドを完璧に合わせる。目の前には195cm、89kgの巨漢DFカリドゥ・クリバリ(伊、ナポリ)がいたが、シュートは右ポストとの間を射抜いてゴールへと吸い込まれていった。

 「今回も同じように一発目のシュートが決まる気もするし、そういうのを決めないと話にならないと思っている。これまでもぶっつけ本番で結果を出してきたことが何度もあるし、いろいろなシチュエーションを想像する、というところは自分の強みのひとつだと思っているので」

 日本を発つ前に、本田は不敵な笑みを浮かべながらこんな言葉を残していた。コロンビア代表との初戦を見すえた言葉だったが、実際のコロンビア戦ではゴールではなく、交代出場から3分後に決まった大迫の決勝ゴールを絶妙な左コーナーキックからアシストしている。
ゴールを決める本田
ゴールを決める本田圭佑=2018年6月、エカテリンブルク
 ちなみに過去2度のワールドカップでは、本田は7試合すべてで先発フル出場を果たしている。ここで言及した「ぶっつけ本番」や「いろいろなシチュエーション」には、日本代表ではなかなか縁がなかった、試合の流れを変えるスーパーサブを想定していたのかもしれない。

 そして、セネガル戦で放った最初にして唯一のシュートで、有言実行を成就させた瞬間にさまざまな記録が生まれた。ワールドカップにおける日本代表の最年長ゴール。すべてアフリカ勢から奪った、日本人初のワールドカップ3大会連続ゴール。アジア勢でも初めてとなるワールドカップ3大会連続のゴール&アシストは、世界を見渡しても6人目の偉業となった。