小澤一郎(サッカージャーナリスト)

 「崩壊」。21日に行われたグループリーグ第2戦、クロアチアに3失点の大敗を喫した翌日のアルゼンチンのスポーツ紙『オレ』の1面トップにはFWメッシが額に手を当て、目を閉じている写真とともにこのインパクトある見出しが付いた。

 同紙はクロアチア戦のメッシについて「何もしなかった。プレーに関与することすらなかった」と厳しく糾弾。初戦のアイスランド戦でも「メッシ依存症」のチームは機能不全を起こし、人口33万人ほどのW杯初出場国に「辛うじて引き分け」と表現するにふさわしい低調なパフォーマンスを露呈したのである。

 ただ、クロアチア戦の大敗後に同組のナイジェリアがアイスランドを下したことで、同時開催のアイスランド-クロアチア戦の結果次第ではあるが、アルゼンチンはこの第3戦でナイジェリアに勝利すれば、決勝トーナメント進出の可能性を残した。これは悪い流れから抜け出せないアルゼンチンにとって一つの朗報だった。

 アルゼンチン国内で、メッシ以上の批判にさらされたのが、長年続くメッシ依存症の代表チームに何ら改善を加えることができないホルヘ・サンパオリ監督だった。クロアチア戦直後には「解任」の噂も飛び交った。

 結果的に、ナイジェリア戦もサンパオリ監督が指揮を執ることとなったが、国内外の報道を整理する限り、チーム内での求心力はゼロに近いレベルまで低下したという。「指揮権剥奪」とまでは言わないまでも、選手リーダーのDFマスチェラーノとメッシを中心にして、選手主体でのメンバーや戦術の選考によるチームの立て直しが図られた。

 注目のアルゼンチンのスタメンは事前の報道通り、カバジェロからアルマーニへのGK変更も含め、システムも3バックから4バック、中盤にはこれまで起用のなかったゲームメーカーのMFエベル・バネガが名を連ねた。

 ここまでの2戦では、どうしてもメッシが中盤に下がってボールを受ける分、攻撃のテンポやスピードは低下していた。結局アルゼンチンは、ボールを持っていても相手にしっかりとスペースと時間を消され、うまく守られてしまう展開を余儀なくされたのである。しかし、この試合はバネガの起用で攻撃に少し変化が見えた。

 その変化の象徴が前半14分、メッシの先制点のシーンだ。中盤のバネガから高精度のミドルパスを受けたメッシが抜け出し、右足でゴールネットを揺らしたが、今大会メッシがDFラインの背後に抜け出すようなシーンはほとんど見られなかった。
ナイジェリア―アルゼンチン 前半、先制ゴールを決め喜ぶアルゼンチンのメッシ=サンクトペテルブルク(共同)
ナイジェリア―アルゼンチン 前半、先制ゴールを決め喜ぶアルゼンチンのメッシ=サンクトペテルブルク(共同)
 万能なメッシはゲームメーカーもフィニッシャーも、どちらのタスクも務めることのできる選手である。だが、過去2戦はボランチにマスチェラーノ、MFビリア、MFエンソ・ペレスという攻撃のゲームメークよりも守備やボール奪取能力で持ち味を発揮する選手が配置されたため、チームの構造上、メッシが中盤まで下りてゲームメークする役を担わざるを得なかった。