藤江直人(ノンフィクションライター)

 瞬く間に西野ジャパンの中に確固たる居場所を築き上げた。もはやこの男を抜きにして、日本代表は機能しないと言っていい。攻守両面でうまさ、強さ、激しさを状況に応じて奏でられるボランチ。柴崎岳(スペイン、ヘタフェ)が「日本の司令塔」として輝きを増している。

 世界中をうならせたのが、セネガル代表とのグループリーグ第2戦の前半34分に見せたプレーとなるだろう。ハーフウエーラインの手前でボールを受け、ルックアップした直後だった。素早く振り抜かれた右足から放たれた鮮やかなロングパスが、1点のビハインドをはね返す序章になった。

 ロングパスのターゲットは、ペナルティーエリア内の左サイドへ攻め上がっていたDF長友佑都(トルコ、ガラタサライ)。トップスピードで走り込んだ先へ、寸分の狂いもなく着弾したボールはMF乾貴士(スペイン、レアル・ベティス)へ渡り、右足から放たれたシュートは美しい弧を描きながらゴールへ吸い込まれていった。

 柴崎がパスを受けてから、ゴールが生まれるまでわずか10秒しか要していない。セネガル守備陣の両サイドにスペースが生じることが、スタッフによるスカウティングで分かっていたのだろう。チャンスの匂いを嗅ぎ取り、最終ラインから一気呵成(かせい)にスプリントを駆ける長友の姿を、自陣にいた柴崎は見逃さなかった。

 正確無比な軌道を描くロングパスをテレビ越しに見ていて、ある言葉を思い出さずにはいられなかった。青森山田高校(青森県)時代の恩師、黒田剛監督は、3年生の柴崎がキャプテンを務めていた2010年度の全国高校サッカー選手権大会中にこう語っている。

 「攻撃に関して一番いいエリアを瞬時に選択して、そこへピンポイントのパスを送れるところが、(柴崎)岳のすごさだと思います」

 この時点で柴崎は鹿島アントラーズ入りが内定していたが、仮契約を結んだのはまだ2年生だった2010年1月だった。複数のJクラブが争奪戦を繰り広げ、最後は名古屋グランパスとの一騎打ちをアントラーズが制した形となった。

セネガル戦にフル出場し、攻守にわたって
大きな活躍を見せた柴崎岳=エカテリンブルク(甘利慈撮影)
 1996年から23年間にわたって強化の最高責任者を務める、アントラーズの鈴木満常務取締役強化部長は「満男の後継者となり得る素材」と語っていた。今シーズンもキャプテンを務める大黒柱、MF小笠原満男からいずれバトンを託させたいと期待をかけながら、柴崎のプロ意識の高さを称賛していた。

 「もっと、もっと上のレベルを目指していくために、いろいろな課題を自分の中で整理しながら、自分自身を客観的に評価していくことができる選手ですね」

 柴崎自身は決して饒舌(じょうぜつ)ではない。胸中に抱く熱き思いを、言葉で表現することを不得手としてきたからか。スペインの名門レアル・マドリードから2ゴールを奪い、世界中を驚かせた2016年12月の国際サッカー連盟(FIFA)クラブワールドカップ決勝後も、クールな仮面を脱ぎ去ることはなかった。

 「僕だけの力で取ったゴールではないので。チームの流れなどがあった中でのゴールなので、チームのみんなに感謝したい。勝てていれば、もっと喜べたとは思うんですけど」

 延長戦にもつれ込んだ死闘の末に、試合は2-4の逆転負けを喫した。相手のエース、ポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドにハットトリックを達成されたこともあって、スーパーゴールの余韻が残る試合後の取材エリアでも感情をあらわにすることもなかった。