河治良幸(サッカージャーナリスト)

 西野朗(あきら)監督は決勝トーナメント進出がかかったポーランド戦の終盤に大きな決断をした。同時刻に行われていたコロンビア対セネガルの試合の途中経過で決勝トーナメント進出が見えてくると、DFラインでボールを回す時間稼ぎの戦術をとった。

 西野監督は試合後に下記のようなコメントを残している。

非常に厳しい選択。万一という状況はこのピッチ上でも考えられましたし、もちろん他会場でも万一はあり得た。それで選択したのは、そのままの状態をキープすること。このピッチで万一が起こらない状況。これは間違いなく他力の選択だったということで。ゲーム自体で負けている状況をキープしている自分というのも納得いかない。不本意な選択をしている。 

 ロシアのファンは、ポーランドと自国が宿敵関係にあるため日本代表を応援しているファンが多く、ポーランド戦の勝利を捨てて時間稼ぎをしたことに失望した人が多かったようだ。ただ、4年に一度しかない大会である。こうした時間稼ぎはどこにも起こり得ることで、相手側のポーランドも途中でボールを追うのをやめていた。彼らもまた1−0の勝利を得ることができれば満足であり、明らかに日本側の意を汲んだ流れだった。

 今回の問題は、他会場での結果が変わっていたら、日本がポーランドと0−1のまま試合を終えても敗退になる可能性があり、非常にリスクのある選択だった。

 もし本当にそうなっていれば、西野監督の立場にも大きく影響しただろう。ただ、確率論から言えば日本があのままポーランドと普通に試合を続けて失点するか、イエローカードをもらう可能性の方が、セネガルがコロンビアに追いつく可能性より高いと想定できる内容だった。だからこそ、西野監督の苦渋の決断そのものは妥当だった。それでも、いざ結果が覆ったときのショックは大きかったはずで、これは極めて大きな賭けだったとも言える。

 また、西野監督はポーランド戦でこれまでの2試合から6人もメンバーを入れ替えた。4-4-2の左センターバックにDF槙野智章、ボランチの1人に山口蛍、右サイドハーフにMF酒井高徳、左にMF宇佐美貴史、そして2トップにFW岡崎慎司とFW武藤嘉紀を並べた。
会見に臨む、西野朗監督=2018年6月28日、ロシア・ボルゴグラード(撮影・中井誠)
会見に臨む、西野朗監督=2018年6月28日、ロシア・ボルゴグラード(撮影・中井誠)
 「6人を起用したのは、いい状態であったし、間違いなく同じようなチームスピリッツでやれる選手を起用しました」と西野監督は語っていた。気温が30度を大きく上回る過酷な環境の中、日本はMF柴崎岳を主な起点としてシンプルに2トップ、宇佐美を使い、「スピードがあまりない」と武藤が指摘していた相手センターバックの裏を狙った。

 前半13分には柴崎のロングパスを宇佐美が頭で落とし、そこから武藤がドリブルを仕掛けてシュートに持ち込んだが、GKファビアンスキのセーブにあった。その3分後には武藤のボールキープを起点に宇佐美がワンタッチでつなぎ、ペナルティーエリア右に飛び込んだ酒井高徳が左足で合わせたが、ファビアンスキに再びセーブされた。

 ポーランドはワイドに展開し、そこからエースのFWレバンドフスキを走らせるが、ディフェンス陣が常に挟み込む形で決定的なプレーをさせなかった。最も危険だった前半32分のピンチにもGK川島永嗣が横っ飛びでワンハンドセーブ。ゴールラインテクノロジー(ゴールラインを割ったかどうかを判定するために設置されている計測機器)の判定もボールはオンライン上でゴールにならなかった。