清水英斗(サッカーライター)

「私はマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)ではない。選ばれるべきはチームだ。そして、ファンだ」(ロシアGKイゴール・アキンフェーフ)

 ワールドカップ(W杯)では当該試合のMOMに輝いた選手は、試合直後の記者会見に登壇し、質問に答える決まりになっている。日本代表も、コロンビア戦では大迫勇也がMOMに輝き、会見でコメントしていた。

 決勝トーナメント1回戦のスペイン対ロシア。この試合でマン・オブ・ザ・マッチに輝いたのは、ロシアのGKアキンフェーフだった。試合中にファインセーブを連発し、1-1の末に迎えたPK戦では、2つのセーブで母国を勝利に導く。このGKが選ばれたことに、異論を挟む余地はないだろう。

 ところが唯一、異論を唱えたのが本人だった。アキンフェーフはドーピング検査の対象となったため、短いコメントのみの登壇となったが、その席で彼がズバッと言い切ったのが、上記の言葉である。

 MOMに選ばれるべきはチーム。そして、ファンだ―。

 あの試合を見た者であれば、この言葉に少なからず、感銘を受けるのではないだろうか。7万8千人を集めたモスクワのルジニキ・スタジアムは、圧倒的に開催国びいきの雰囲気が出来上がっていた。スペインが得意のボール回しを始めると、すぐに観客から強烈なブーイングが浴びせられる。悠々とパスを回すはずのスペインに、思わぬ圧力がかかった。
スペイン―ロシア PK戦でスペインのアスパスのキックを止めるロシアのGKアキンフェーフ。ロシアが勝利=モスクワ(ロイター=共同)
スペイン―ロシア PK戦でスペインのアスパスのキックを止めるロシアのGKアキンフェーフ。ロシアが勝利=モスクワ(ロイター=共同)
 さらにロシアがボールを奪うと、大歓声が起こり、カウンターに出ようものなら、割れんばかりの興奮のるつぼと化す。スペインの選手は、自分を保つのが大変だったはずだ。逆にロシアは、大きな勇気を得て戦うことができた。

 スタジアムにいた観客は、ロシア人だけではない。特に決勝トーナメント1回戦は、自国の代表チームがグループリーグを突破すると信じて疑わなかったサポーターを含めて、色とりどりのユニホームを着た観客で埋め尽くされる。