そして、彼らはW杯の楽しみ方を知っており、必ずどちらか一方のチームに入れ込む。その対象は間違いなく、開催国であり、かつ強豪国を倒そうとするチャレンジャーのロシアだった。

 ロシア人の情熱と、サッカーファン独特の「ノリ」。2つの要因が重なったルジニキ・スタジアムには、スペインの居場所をなくすほどの圧倒的なロシアのホームが出来上がっていた。

 また、スペインを困らせたのは、ファンだけではなかった。この試合に向けてロシアが整えた戦術も大きなポイントになった。

「4-4-2」の布陣でアグレッシブに戦うことを信条とするロシアだが、この試合は「5-4-1」で3人のセンターバックを起用し、お尻を重くして守備ブロックを固めた。その狙いについて、ロシア代表のチェルチェソフ監督は次のように語っている。

「スペイン戦のために用意した。カウンターがベースで、オープンなフットボールを避けた。4バックなら、もっと攻めることができただろう。5バックは決して好きなシステムではない。しかし、やるしかなかった。正しい戦術を選んだと思っている。選手を説得し、落とし込む必要があった。彼らは納得し、賢くやってくれた」

 スペインはウインガーのMFアセンシオをスタメン起用したので、ロシアが「4-4-2」を敷くと予想し、その外側を突き崩す狙いがあったのかもしれない。ところが、ロシアは5バックに変化したため、ウインガーが快適にプレーするスペースの横幅はなかった。
ロシアにPK戦で敗れ、肩を落とすイニエスタ(6)らスペインイレブン=モスクワ(ロイター=共同)
ロシアにPK戦で敗れ、肩を落とすイニエスタ(6)らスペインイレブン=モスクワ(ロイター=共同)
 また、スペインは「4-2-3-1」でダブルボランチを敷いたが、中盤の底を増やすよりも、より前方、相手のライン間でプレーできる選手を増やす方が、ロシアを困らせることができたはずだ。スペインの対ロシア戦術はもくろみが外れており、効果的ではなかった。

 とはいえ、崩し切る画面がそれほど多くなくても、終始ボールをポゼッションしたのは、やはりスペインだ。ハードワークを続けるロシアも刻一刻と疲労がたまっていく。ロシアは、どこまで我慢できるか。PK戦に持ち込み、万に一つの勝機をつかめるか。