実はこれまでのチェルチェソフ監督のキャリアには、一つのパターンがあった。それは次のような流れだ。


規律とハードワークを重視し、チームを変革する

チームが結果を残す

主力選手が反乱を起こし、解任される



 どこかで聞いたような話ではあるが、規律とハードワークを重視するタイプの監督にとっては、常にくすぶる火種とも言える。人間はロボットではない。やられ続ければ、我慢できなくなり、いつか規律を失ったり、監督の戦術に疑問を持ち始めるかもしれない。「おれはもっと攻めたいのに! その能力があるのに!」と。

 だが、この圧倒的なスタジアムの雰囲気は、チェルチェソフ率いるロシアの背中を、どこまでも押し続けた。選手が戦い方に疑問を持ったり、自信を失ったりする余地など、一切ないほどに。

 一体感のあふれるロシアは、なんと120分を走り切った。カウンターは精度を欠き、ほぼ全てのボールをスペインに奪い返されたため、ポゼッション率(支配率)はわずか25%。本当にほとんどの時間を自陣で守っていた。泥水をすするようなロシアの勝利を、観客は最大ボリュームのスタンディングオベーションでたたえた。
PK戦でスペインを下し、イエロ監督(左)と握手するロシアのチェルチェソフ監督=モスクワ(ロイター=共同)
PK戦でスペインを下し、イエロ監督(左)と握手するロシアのチェルチェソフ監督=モスクワ(ロイター=共同)
 ところが、徹底したリアリストのチェルチェソフは、この感動的な勝利にも、一切浸る気はないようだ。会見で記者に質問され、次のように答えている。

「感動的な勝利だった? チームも試合も、君が見た通りだ。今は次の試合のことだけを考えている。明日はメディカルチェックを行う。休みが必要だ。次の試合に向けて、誰がフィットして行けるのかを見極める。感動に満足する暇はない」

 どことなく、あの人に似ているロシア代表の監督。どこまで突き進むことができるか。開催国が盛り上がれば、W杯が盛り上がる。今後も期待しよう。