杉山崇(神奈川大人間科学部教授)

 サッカーW杯ロシア大会に臨んだ西野ジャパンは非常に残念な終戦となりました。それでも、ベスト16は大会前のネガティブな評価を覆す見事な成果でした。ただ、世界ランキング3位のベルギーに2-0とリードしながらの逆転負けは、西野朗(あきら)監督の言葉を借りれば、「勝機を拾う」はずが逆に相手に勝機を与えてしまった試合展開になったといえるのかもしれません。

 敗戦後のインタビューで、西野監督も「何が足りないんでしょうね…」と言葉に詰まっていました。ベルギーのマルティネス監督も日本の戦いぶりをたたえる中での敗戦です。

 試合の勝敗を分けたのは、サッカーの差ではなく、メンタリティーの差といえるかもしれません。そこで、本稿では日本中に感動を与えた戦いに感謝しつつ、心理面から足りなかったものを考えてみたいと思います。
 
 試合は、後半直後にMF原口元気、MF乾貴士のスーパーゴールで2点を勝ち越す理想的な流れでした。しかしその後、自分たちのパス回しの失敗を起点として1点を返されました。ここで立て直せればよかったのですが、結果的に69分、ロスタイムと失点を重ねて2-3の逆転負けを喫しました。

 試合の印象や考え方としては、「ベルギーが強かったから返されてしまった」「日本の限界だった」と捉えることもできるかもしれません。しかし、筆者には勝ち越しから失点までの間に、自分たちのパスミスに対して苦笑いして、足が止まっている選手がいたことが気になりました。勝ち越したことで、一瞬でも挑戦者のメンタリティーを失ってしまったように見えたからです。

 挑戦者のメンタリティーとは、良い意味で相手を恐れて、自分の全力を出せるメンタリティーです。実は、恐れというものは高い集中力を生む感情なのです。

 恐れは強すぎると人をうろたえさせるため、自らのパフォーマンスを下げてしまいます。しかし、恐れを適度に保(たも)てれば、自分にできることに集中して全力を出せる原動力になるのです。いわゆる「敵を知り、己を知れば」の心境です。敵の強さをよく知っているわけですから、苦笑いをする余裕も、足を止める時間もあるはずがありません。

 勝ち越しまでの日本は挑戦者のメンタリティーがチーム全体を覆って、引き締まった好ゲームを闘っていたように思えます。前半、MF柴崎岳がイエローカードをもらった場面では、直前に柴崎のキープを狙われて、ボールロストしました。攻撃の起点である柴崎がキープすれば、チーム全体が攻撃に備えます。その中での敵のカウンターは非常に恐ろしい展開です。柴崎は攻撃を組み立てるモードから、瞬時に失点を恐れるモードに切り替えて、半ばイエローカード覚悟で必死に止めに行ったように見えました。
ベルギー戦の前半、ベルギーのE・アザール(右)にタックルする柴崎。イエローカードを受ける=ロストフナドヌー(共同)
ベルギー戦の前半、ベルギーのE・アザール(右)にタックルする柴崎。イエローカードを受ける=ロストフナドヌー(共同)
 日本の1点目も、原口の挑戦者のメンタリティーから生まれたゴールに見えました。柴崎からの縦に早いパスを受けた原口は慎重にゴールに迫り、わずかなフェイントでタイミングを外して敵DFとGKのスキを作っての得点でした。入った瞬間、原口の「信じられない」といった表情からも、無心で「自分にできること」に集中したシュートだったことがうかがえます。

 2点目の乾の得点もDFが重なる中で、わずかなスキを狙っての見事なゴールでした。このように勝ち越しまでは素晴らしい集中力が続いていたように見えます。
 
 ただ、勝ち越し後の日本は前掛かりになってきたベルギーをいなす形になりました。日本のパス回しのうまさがわかってきたベルギーは無理に追い回さなくなり、日本選手は余裕があったようにも見えました。