小澤一郎(サッカージャーナリスト)

 日本としては全てを出し尽くした試合であり、間違いなく今大会のベストパフォーマンスだった。4年に一度のワールドカップ、しかもラウンド16という緊張感あふれる大舞台では、ただでさえ普段のパフォーマンスを発揮することが難しい。それは日本と同じくこのラウンドで姿を消したアルゼンチン、スペイン、ポルトガルといった大国を見てもわかる。

 このベルギー戦では、交代出場の2人を含めた出場13選手全てが持てる力を存分に発揮するプレーで、優勝候補の一角であるベルギーを最後の最後まで追い詰めた。そのこと自体が日本サッカー史に残る偉業であり快挙。敗れたとはいえ、この激闘には感謝、感激といった感情しか持ち合わせることができない。

 大会2カ月前の監督交代劇、用意周到な準備期間がない中で開幕を迎え、周囲の期待値も低い中で最低限の目標であったベスト16入りを果たした。さらに史上初となるベスト8入り、ベルギーというFIFAランク3位の大国に大金星を挙げる直前まで行ったことは大いに評価できる。

 だからといって、すでに多くのマスメディアがそうであるように、冷静な分析、検証なしに「感動をありがとう」とロシアW杯で躍動した日本代表ブームを消費するだけでは、この先に何もつながらない。

 W杯経験の豊富な今大会の日本代表メンバーの中で、一躍主役として躍り出たのが柴崎岳と乾貴士の2人だ。共にスペインのラ・リーガで活躍する選手である。ラ・リーガは欧州の中でも格段に戦術レベルの高いリーグだ。

 スペインサッカーといえば「華麗なパスサッカー」のイメージがいまだ根強くあるものの、スペインサッカーの根幹には育成年代からの緻密な戦術指導がある。
ベルギー対日本戦前半、競り合う柴崎岳=2018年7月2日、ロシア・ロストフナドヌー(撮影・甘利慈)
ベルギー対日本戦前半、競り合う柴崎岳=2018年7月2日、ロシア・ロストフナドヌー(撮影・甘利慈)
 今大会のスペイン代表は初戦2日前の監督交代の影響もあり、低調な内容でラウンド16敗退となった。しかし、トップに君臨するイニエスタ、イスコ、シルバといった日本では「テクニシャン」と表現される中盤の技巧派たちは、テクニック以上に頭脳が抜群に秀でている。

 一言で表現すれば「サッカーを知っている選手」なわけだが、柴崎、乾はスペインで「サッカーをプレーする」ということを習得した。例えば、今大会2得点、このベルギー戦でも見事な無回転ミドルシュートをたたき込んだ乾だが、彼が最も成長したのはドリブルやシュートの技術ではなく、守備におけるポジショニングと駆け引きだ。

 90分の試合において、1人の選手がボールに触れる時間は1〜2分といわれる中、選手の知性や頭脳はボールがない時間、特に守備に見える。見事なアシストパスを原口に通した柴崎も、今大会を通じてポジショニングの良さからボランチとして何度もインターセプト、ボール奪取を成功させていた。