2選手共にスペインサッカーへの憧れがあり、意を決して乾はドイツから、柴崎は日本から情熱の国にやってきた。乾は移籍先のフランクフルト時代から大幅減の年俸を受け入れ、柴崎は2部、しかもテネリフェというアフリカ大陸横の島暮らしからスタートしている。

 2人が来る前にも、大勢の日本人選手がスペインの門をたたきながらも思うような活躍を見せることなく帰国、移籍を強いられていた。そんな中、彼らはスペインで確かな評価と活躍を残している。彼らの活躍の背景には、まず何より「今の条件を落としてでもスペインで挑戦する」という覚悟があった。

 欧州のトップリーグ、トップクラブと比較すればまだまだ年俸やプレー環境面で追いつかないJリーグながら、J1ともなるとそこそこの年俸やプレー環境を手にできる。Jリーガーの中でも「海外でプレーしたい」と口にする選手は多いが、彼らのように例え条件が下がったとしても、本気で覚悟を持って、あえて苦しい環境に身を投じるような選手は実際には少ない。

 また、2人は日本で流通しているスペインサッカーのイメージ(=華麗なパスサッカー)をもともと持っていないか、あるいは即座に放棄している。昨季彼らが所属をしたエイバル(乾)、ヘタフェ(柴崎)はラ・リーガ1部で残留を目標に守備的に戦うチームだが、彼らは自らの理想や攻撃のイメージをいったん横に置いて、きちんと守備やチーム戦術と体得しようとする姿勢を見せ素早く吸収している。

 海外移籍に失敗する選手は間違いなく、うまくいかない時に「こんなはずではなかった」と現状を嘆くか愚痴を言うのだが、特に柴崎は2部テネリフェ移籍当初、適応にとても苦しみながらも一切弱気な発言、逃げる姿勢を見せなかった。

 もちろん、今回取り上げたスペインでプレーする2選手のみではなく、今回の日本代表の躍進を支えた主力選手の大半は欧州でプレーしているわけで、海外組はどの選手も確実に自分なりの覚悟と苦労を持って日常を過ごしているはずだ。
後半、ゴールを決めた乾貴士=ロシア・ロストフナドヌー(撮影・甘利慈)
後半、ゴールを決めた乾貴士=ロシア・ロストフナドヌー(撮影・甘利慈)
 しかし、特に戦術面での負荷が高く「サッカーを知っているかどうか」がストレートに問われるスペインでプレーする乾と柴崎の2人は、今大会で「日頃プレーしているレベルの高さ」をわれわれに示してくれた。それは同時に、今大会の躍進、奮闘を踏まえて、本気で日本代表がベスト8入りを目指すためには、彼らのような厳しい日常を送る選手が最低でも23人そろう代表チームになる必要があるということだ。

 現状維持は停滞。それくらいの向上心と野心を持って厳しい欧州の環境に身を投じることのできる選手が、日本国内からこの後どのくらい出てくるのか。今回の日本代表がともしてくれたこの火を消さないためにも、これからの日本サッカーを担う若手がもっともっと早いタイミングで、できれば10代で欧州に挑戦することが当たり前となる環境とシステムを、日本サッカー界として意図して作っていかなければいけない。