指揮官が言及した30分間とは、2点を追うベルギーのロベルト・マルティネス監督が、ナセル・シャドリ(英、ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン)、アルマン・フェライニ(英、マンチェスター・ユナイテッド)の両MFを一気に投入した後半20分以降を指している。

 前者は187センチ、後者に至っては194センチの長身を誇る。日本が持ち合わせない「高さ」が加わったベルギーは、前線をフェライニと190センチ、94キロの怪物ロメル・ルカク(英、マンチェスター・ユナイテッド)の2トップに変えて、試合の流れを強引に引き戻そうとしてきた。

 果たして、4分後の後半24分にDFヤン・フェルトンゲン(英、トッテナム・ホットスパー)がヘディングで放った、パスにも映った山なりの一撃がGK川島永嗣(仏、メス)の頭上を越えてしまう。ラッキーな形で1点を返したベルギーは、さらに攻勢を強めてきた。

 わずか5分後には、左サイドからFWエデン・アザール(英、チェルシー)が放ったクロスに、飛び込んできたフェライニが頭ひとつ抜け出す形で強烈なヘディングを一閃。瞬く間に同点に追いつき、試合終了まで1分を切った土壇場でもぎ取った劇的な逆転勝利に至る流れを作った。

 選手交代を介してベルギーがシナリオを練り直したのならば、日本も交代のカードを切って対抗すべきだった。しかし、西野監督は動かなかった。いや、動けなかったと言っていい。コメントから察するに半ばパニック状態に陥っていたのと、何よりも流れを押し返せる武器を持ち合わせていなかった。

 例えば189センチのDF吉田麻也(サウサンプトン)に次ぐ高さを持つ、186センチのDF植田直通(鹿島アントラーズ)を投入。最終ラインの形を4バックから3バックに変えて、吉田と植田でもってルカクとフェライニの高さに対抗する手もあった。

 しかし、植田はグループリーグでワールドカップの舞台に立っていなかった。開幕前のテストマッチでも6月12日のパラグアイ戦に出場しただけで、何よりも3バック自体も初陣となったガーナ代表とのワールドカップ壮行試合で、後半途中まで試してからは事実上封印していた。

 初ゴール及び初勝利を挙げた件のパラグアイ戦で、ようやく軸になる11人が固まった。本田圭佑(メキシコ、パチューカ)ではなく香川真司(独、ボルシア・ドルトムント)をトップ下、ジョーカーとして考えていた乾貴士(スペイン、レアル・ベティス)を左MFにすえ、ボランチの一角には柴崎岳(スペイン、ヘタフェ)を、センターバックには昌子源(鹿島アントラーズ)をそれぞれ抜擢した。
パラグアイ戦でゴールを決め歓喜する乾貴士(中央)=2018年6月12日、オーストリア・インスブルック(撮影・中井誠)
パラグアイ戦でゴールを決め歓喜する乾貴士(中央)=2018年6月12日、オーストリア・インスブルック(撮影・中井誠)
 いわゆる「プランA」はギリギリで出来上がったものの、戦い方に幅を持たせる「プランB」の構築は残念ながら間に合わなかった。西野監督が初めて交代のカードを切ったのは後半36分。本田とMF山口蛍(セレッソ大阪)を同時に投入したが、高さで対抗するわけでもなく、疲れが見え始めた時間帯で相手が嫌がる速さも日本に加えることもできなかった。

 それでも3点目を奪いにいった末に決勝点をもぎ取られた。カウンターの起点となったのは、199センチの高さを誇る絶対的守護神ティボー・クルトワ(英、チェルシー)。本田が放った左コーナーキックを難なくキャッチし、素早いハンドスローをすでに走り出していた司令塔、ケビン・デ・ブライネ(英、マンチェスター・シティ)へつなげ、さらに4人の選手も一気呵成に連動した。