もっとも、サプライズなしの顔ぶれには、一緒にプレーした機会の多い選手たちによる連携を色濃く生かし、そこへベテランと呼ばれる選手たちの経験と、ヨーロッパの舞台でもがき、苦しみながらも選手たちが体得してきた個人戦術を融合させる即効性のチーム作りを選択した。

 そこで前述した「何かを足す」という作業が加わる。注入された「何か」の正体とは、首脳陣と選手、あるいは選手同士による相互理解となる。千葉県内の合宿では、長く日本代表で採用されたことのない3バックの習熟にほとんどの時間が割かれた。DF槙野智章(浦和レッズ)は、ハリルジャパン時代との変化をこう指摘したことがあった。

 「西野監督もそうですし、手倉森(誠)コーチに加えて森保(一)コーチも入ったことで、非常に密なフィードバックが選手たちに対してある。そこが大きな違いのひとつですし、あとは練習の中でディスカッションする時間が増えていますよね。ハリルさんの時は、練習中にみんなが話すと『やめろ』と制限されましたから。そうしたストレスがない、という意味でディスカッションする時間があるのも非常に大きな変化だと思います」

 不慣れな戦い方を、急いで統一しなければならない必要性に駆られたのか。千葉合宿中にピッチの至るところで見られた話し合いは、日本語だけが飛び交うという状況にも後押しされ、選手間の相互理解を急ピッチで加速させた。時間が極めて限られていることを逆手に取ったと言っていい。

 しかも、ガーナ戦の後半途中で4バックへスイッチされてからは、3バックは一度も披露されていない。あくまでも推測の域を出ないが、チーム間のディスカッションを促成させる狙いも、唐突に映った3バックの導入には込められていたのではないだろうか。

 結果として国内組は昌子だけという、ロシア大会におけるファーストチョイスが固まった。ハリルホジッチ監督は日本が主導権を握られる展開を大前提としていたが、西野監督のもとでロシアの地で披露されたのはハリルジャパン時代の遺産にテクニックの高さや勤勉性、献身性、運動量の多さにコンビネーションを融合させて、状況や時間帯によっては主導権を握り、試合を支配する日本の姿だった。

 ベルギーを相手に2点のリードを奪ってからの試合運びを冷静に振り返れば、指導者の一人として納得できない思いが込みあげてきたのだろう。ロシア大会全体を「十分に大きな成果を挙げてきたわけではない」と総括した西野監督は、一方でこんな言葉も残している。
ベルギー対日本、涙を流す乾貴士をねぎらう西野朗監督=2018年7月2日、ロシア・ロストフナドヌー(撮影・甘利慈)
ベルギー対日本、涙を流す乾貴士をねぎらう西野朗監督=2018年7月2日、ロシア・ロストフナドヌー(撮影・甘利慈)
 「半分は素直に申し訳ないと思いながらも、1ページか、あるいは半ページくらいは次につながるものを示せたチームを指揮したという気持ちがあります。これまでは8年周期でベスト16へチャレンジしてきましたが、この周期ではダメです。次のカタール大会では間違いなくベスト16の壁を突破できる段階にある、という状態につなげたという成果だけは感じたいと思う」

 毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい戦いを演じた末に、日本独自のスタイルへつながる手応えを手土産に帰国した西野ジャパンは解散した。本田に続いて長谷部も代表引退を表明し、ひとつの時代が終わりを告げた中で、早ければ7月中に就任が決まる新監督には、ロシアで生まれたベクトルを未来へ向けて力強く、なおかつ鮮明に伸ばしていく作業が課されなければならない。