小澤一郎(サッカージャーナリスト)

 98年大会以来2度目の優勝を狙うフランスと、本命のブラジルを撃破して初優勝に向けて視界良好のベルギーが対戦した準決勝は、51分のDFサミュエル・ウンティティのゴールを守りきったフランスが1-0で勝利した。

 試合を振り返る上ではまず、ベルギーが採ったフランス対策のシステムと戦術がポイントになる。準々決勝でも「対ブラジル」のシステム、戦術を完璧に近いレベルで準備、遂行したベルギーだったが、策士のロベルト・マルティネス監督は、この準決勝でも攻撃ではベースとなる「3-4-2-1」、守備局面では「4-2-3-1」へと可変するシステムを採用した。

 ベルギーにとってこの試合で最大の不安要素は、獅子奮迅の活躍をみせていた右ウイングバック(WB)、DFトマ・ムニエの出場停止だった。そこには予想通り、日本戦で決勝ゴールを奪ったMFナセル・シャドリを起用してきたマルティネス監督だが、左にはサプライズでエースのFWエデン・アザールを置いた。

 アザールの左WB起用により、当然守備時にはフランスの右サイドバック(SB)、DFベンジャマン・パヴァールがフリーとなる局面が多くなっていた。しかしベルギーとしては、フランスのSBがそれほど攻撃参加することなく守備の安定を最優先にするチーム構造を分析した上で、あえてそこを突くための戦略的システムだった。右にMFケヴィン・デ・ブライネを配置したことも含めて、マルティネス監督の巧妙な狙いが序盤から形として出ていた。

 一方のフランスは、準々決勝で出場停止だったMFブレーズ・マテュイディが先発に復帰し、ベスト布陣かつ今大会中に確立した「4-2-3-1」のシステムを採用。ただし、マテュイディの特徴であるプレーエリアの広さを生かして、彼が中盤に入れば左サイドのスペースにFWアントワーヌ・グリーズマンが流れるという補完関係を保ち、その場合は「4-3-3」となる、こちらも可変のシステムだ。

 パッと見ではフランスもベルギーも「どういうシステムなのか」を理解することは難しい。ある意味で、システムを数字に当てはめること自体がナンセンスに映るほど瞬時にその数字は変化する。
後半先制点を決める、フランス代表のサミュエル・ウンティティ(右)=2018年7月、ロシア・サンクトペテルブルク(撮影・中井誠)
後半先制点を決める、フランス代表のサミュエル・ウンティティ(右)=2018年7月、ロシア・サンクトペテルブルク(撮影・中井誠)
 欧州のクラブレベルでは、攻撃と守備のフェイズによってシステムが可変するのは今や当たり前だが、今大会ではとうとう代表レベルでも、勝ち残る強豪国は試合中のシステムと戦術の変更を当然のごとく実行するようになっている。

 だからこそ、サッカーの試合中継の解説者には、そのチーム(国)の構造とベースの戦術、システムから派生する多様性を目の前の現象に合わせて解説することが求められている。しかし、少なくとも日本の地上波の中継においてそれをできる解説者は、残念ながら片手どころか3本の指も必要ないほどの人数に限られることが露呈した。