クロアチアはアンカーのMFマルセロ・ブロゾビッチが、あまり前へ出て来ない。センターバックの近くで、スペースを常に埋めているため、モドリッチとラキティッチが相手に食いつくと、中盤に広大なスペースが生まれる。これをイングランドは狙っていたのである。特にターゲットとしたのは、相手センターバックのDFドマゴイ・ビダである。

 準々決勝でロシアに勝利した後、「ウクライナに栄光あれ。この勝利をささげる」とフェイスブックに投稿し、物議を醸していたビダは、この日もスタジアム中のロシア人から、ボールを持つたびに大ブーイングを受けていた。イングランドが狙ったのは、このDFだ。

 スピード豊かなFWラヒム・スターリングが、ビダの裏へ斜めに飛び出し、ビダの手前では、右インサイドハーフのMFジェシー・リンガードが足元でボールを受ける。前半、この形でリンガードがフリーになって前を向く回数が多く、パターンの再現性が高かった。

 このようにポジショニングを工夫しながら、ピッチ上に優位を生み出す組織的な戦術を「ポジショナルプレー」と呼ぶ。イングランドは見事なサッカーを見せていた。

 GKジョーダン・ピックフォードも、出色のパフォーマンスである。ロングキックはアリの眉間さえ貫くほどの精度で、FWハリー・ケインへ届く。アグレッシブに高いポジションを取り、ゴールを空けた状態でクロスをキャッチする。

 身長は185センチと、イングランド3人のGKの中で最も上背のないピックフォードだが、正GKの座をつかんでいる。技術と運動能力を生かしたプレーは、日本代表がGKを育成する上でも参考になりそうだ。
クロアチア戦の前半、先制のFKを決め、駆けだすイングランドのトリッピアー(右から2人目)=モスクワ(共同)
クロアチア戦の前半、先制のFKを決め、駆けだすイングランドのトリッピアー(右から2人目)=モスクワ(共同)
 ブラボー、イングランド。それがなぜ、あんなことになってしまうのか。

 イングランドの守備システム「5-3-2」は、3人しかいない中盤の両サイドにスペースが空きやすい。前半のクロアチアはそこでボールを持った後、攻めあぐねていたが、後半は割り切ってクロス、クロス、クロス。このチャレンジが実を結んだ。

 DFシメ・ブルサリコのクロスに、ファーサイドからペリシッチが飛び込み、イングランドのDFカイル・ウォーカーの前にアクロバティックな左足を出す。ファウル気味にも思えたが、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の修正はかからず、クロアチアの同点ゴールは認められた。