2018年07月13日 13:15 公開

マット・マグラス環境担当編集委員 

アイスランドの捕鯨業者が、地球上に残っている最も大きな動物とされるシロナガスクジラとみられるクジラを殺傷した。

反捕鯨活動家による証拠写真には、巨大なクジラが輸出のためにさばかれている様子が写されている。

専門家らは写真に写っているのは若いオスのシロナガスクジラだと結論付けた。シロナガスクジラは1978年以降、捕獲されていない。

このクジラの捕獲に関わった捕鯨会社は、この個体はシロナガスクジラとナガスクジラの交雑種で間違いないとしている。

正確な種別の判定にはDNA判定が必要となる。

シロナガスクジラが問題となる理由

シロナガスクジラに注目が集まっているのは、この種の捕獲がアイスランド法に則っているかどうかが問題となっているからだ。

体重200トン以上、全長30メートルにもなるシロナガスクジラは、1940~60年代に英国を含む各国の捕鯨業者によって乱獲されていた。その後、国際捕鯨取締条約で捕獲が禁止されたため、アイスランドもシロナガスクジラを捕獲してはいけないことになっている。

しかしナガスクジラの事情は違う。

国際的にはすべてのクジラの捕獲がモラトリアム(一時停止)に入っているものの、アイスランドはナガスクジラが絶滅の危機にあることを認めず、捕鯨を許可している。

シロナガスクジラとナガスクジラの交雑種はグレーゾーンだと専門家は説明する。交雑種の存在は、捕鯨業者が間違いを犯しただけだと言い逃れる理由を与える。

「もしこれがシロナガスクジラなら違法となり、捕鯨業者は罰金を取られるか、捕鯨許可を剥奪されるかもしれない」と、今回の捕獲を撮影した反捕鯨団体「ハード・トゥ・ポート」アルネ・フォイアーハーン氏は話した。

専門家の意見は?

証拠写真からは、ほとんどの専門家がシロナガスクジラに見えるとの見解を示している。

しかし「100%は保証できない」とフォイアーハーン氏は釘を刺した。

「多くの国際的な専門家に問い合わせたところ、大部分が若いオスのシロナガスクジラだと思うと答えたが、同時にシロナガスクジラとナガスクジラの交雑種の可能性を疑ったり、そちらを支持する専門家もいた」

もっと明確な意見の専門家もいる。

米海洋大気庁(NOAA)アラスカ漁業科学センターのフィリップ・クラッパム博士は声明で、「写真では、この個体はシロナガスクジラの全ての特徴を備えている」と指摘した。

「特にその色合いから、経験豊富な観察者がこのクジラを別の海洋生物と間違える可能性はほとんどない」

捕鯨業者の主張は?

このクジラの捕獲に関わった捕鯨会社は、この個体はシロナガスクジラではなく交雑種だと主張している。

捕鯨会社クバルルを経営するクリストヤン・ロフトソン氏は「これが交雑種だと大きな自信を持って言える」と話した。

「シロナガスクジラとナガスクジラを間違えることは不可能で、このクジラは海にいるナガスクジラの特徴を全て備えている。アイスランドの沖合いには多くのシロナガスクジラがいるが、潮を吹いているのを見つけて近づいてもそれがシロナガスクジラだと分かれば見逃し、ナガスクジラを探しに行く」

アイスランド政府の見解は?

アイスランドのクリストヤン・ユリウソン漁業・農業相は「初期段階の情報では問題の生物はシロナガスクジラではないとみられるが、我々はこれらの報告を深刻に捉えており、関連当局が早急に調査に当たっている」と話した。

「現段階ではアイスランド当局はこの個体の種類を確認する立場にないが、国内の漁業管理局からの初期段階の情報は、捕獲された動物はシロナガスクジラではなく、シロナガスクジラとナガスクジラの交雑種の可能性があると示唆されている」

しかし活動家らは、今回の出来事は全体的に悪い印象を与えるため、この個体がシロナガスクジラかどうかは長期的には大きな問題ではないと話す。

フォイアーハーン氏は「この写真を見た世界中の人々が言葉を失った。何千人もの人々がアイスランドに野生のクジラを見に来ているなか、捕鯨を続けているのはたったの1社だ。今回の出来事は本当に、アイスランドの国際的な評判に悪い光を当てている」と話した。

DNA判定は決定打となる?

そのようだ。しかしすぐに判定が行われるかどうか、活動家らは疑問を持っている。

フォイアーハーン氏は「すでにアイスランド当局に問い合わせ、サンプルを要求している」と語った。

「しかし今のところ、当局はそれほど気にかけていないようで、DNA判定の結果が出るのは秋か冬になると話している」

アイスランド政府は、この問題について対処を遅らせているわけではないとしている。

ユリウソン漁業・農業相は、「DNA分析の結果が出れば(クジラの種類が)分かるが、これらの報告の性質から、プロセスは早急に進められている」と話した

交雑種のクジラは一般的?

専門家らは、アイスランド沖合いでクジラの交雑種が見つかるのは一般的ではないとしている。

クジラとイルカの保護団体クジラ・イルカ保護協会(WDC)のアストリッド・フックス氏は、「1983年以来、5頭しか記録されていない」と話した。

フックス氏はBBCに対し、「うち4頭は捕鯨業者によって殺傷され、1頭は今も生きていてホエール・ウォッチングでも人気者。とても希少だ」と述べた。

クジラの肉はどうなる?

アイスランドはクジラ肉のほとんどを日本に輸出している。日本は捕鯨を続けている数少ない国の一つだ。しかし、もし今回捕獲された個体がシロナガスクジラだった場合、その肉は輸出ができなくなる。

交雑種だった場合は、その肉はアイスランド国内で販売できる可能性がある。しかし動物の貿易を取り締まる国際規約では、交雑種の場合は親の種別が問題となる。そのため、この個体の親がシロナガスクジラだった場合は、やはり日本の市場には流通されない。

アイスランドの捕鯨業界への影響は?

クリストヤン・ロフトソン氏の会社はすでに、今回捕獲された個体を含めた22頭のクジラを捕獲・殺傷している。

もしこのクジラが交雑種だと分かれば、捕鯨会社には大きな悪影響はないとみられる。

ロフトソン氏は、自分は活動家に標的にされており、今回の捕獲・殺傷にも特別なことはないと話した。

ロフトソン氏はBBCに対し、「我々にとって目新しいことはない。ここ数年で似たような個体を少なくとも5頭捕らえたが、DNA判定ではナガスクジラとは違う結果が出て、シロナガスクジラとナガスクジラの交雑種だと説明された」と語った。

一方、反捕鯨活動家は、これが終わりの始まりになるかもしれないと指摘した。

WDCのアストリッド・フックス氏は、「今回の件がアイスランドの捕鯨に終止符を打ってくれることを期待している」と述べた。

「科学者らが何年もの間言ってきた、捕鯨は規制できないという主張を確認するものになる。捕鯨はいつも制御ができておらず、捕鯨業者は海に出て、彼らは何を撃っているのか分かっていない。もしこの個体がシロナガスクジラなら、捕鯨は規制できないというメッセージを痛感させるだろう」

(英語記事 Whale killing: Iceland accused of slaughtering rare whale