記者会見では韓国に相談せず、コストを理由に「非核化交渉の間は米韓合同演習を中止する」と発表しました。在韓米軍は核保有の北朝鮮のみならず中国も視野に入れているので、北東アジアの安全保障にとって極めて重要であるというのが、外交・安全保障問題の専門家の見解です。

 ところがトランプ大統領は、彼らとはまったく異なったパラダイム(ものの見方・考え方)に基づいて議論しています。率直に言ってしまえば、在韓米軍にかかるコストに反対するトランプ支持者を意識して発言したのです。史上初の米朝会談においても、トランプ氏は「支持基盤第一主義」を貫いたということです。

 米朝共同声明には、「検証可能」「不可逆的」という文言は入りませんでした。非核化に関する期限及び具体的な検証の仕方に関しても一切触れていません。結局、今回の米朝会談で非核化についてトランプ大統領の本気度に疑問符が付きました。これまでは、北朝鮮の非核化のコミットメント(関与)に懐疑的でしたが、会談の「ショー化」にエネルギーを注ぐトランプ氏を見ると、同氏の本気度を疑うのは当然です。

 マンマス大学(米東部ニュージャージー州)が実施した最新の世論調査(18年6月12-13日実施)によれば、「米朝首脳会談でどちらの国がより多くの利益を得たと思うか」という質問に対して、有権者のわすか12%が米国と回答したのに対して、38%が北朝鮮と答えました。

 しかも、同世論調査では米朝会談でトランプ氏が「強く見えた」と回答した有権者は46%、一方金氏は45%で拮抗しています。演技力と発言力の双方でトランプ大統領が金氏を上回っていたのにもかかわらず、米国の有権者は同大統領に厳しい評価を下しています。

 確かにトランプ大統領の米韓合同演習中止の発表は、金氏にとって収穫でした。だたそれのみではありません。
トランプ米大統領(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=12日、シンガポール(ロイター)
トランプ米大統領(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=12日、シンガポール(ロイター)
 トランプ大統領は、米朝首脳会談後の記者会見で日本及び韓国に経済支援の費用を期待していると述べました。帰国後、米FOXニュースとのインタビューの中で、金氏について「我々はケメストリー(相性)がとてもいい」と4回も語り、両首脳の良好な関係を強調しました。

 金氏はすでに外交・安全保障において、習近平国家主席を後ろ盾にてしています。加えて今回の会談で、同氏はトランプ氏を経済支援の後ろ盾に得ることに成功しました。これが、同氏にとって最大限の収穫であったわけです。

うんの・もとお 明治大学教授、心理学博士。明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。