有田芳生(参院議員)

 「国務省関係者に『トランプ氏は日本人拉致問題をどこまで真剣に取り上げてくれるのか』と聞いたところ、『彼が日本との間で関心があるのはトレード(貿易)だけだ』と明言し、トランプ氏本人が拉致問題について本気で交渉すると安倍政権が考えているなら、『それは妄想だ』と警告していました」

 これは共同通信の太田昌克編集・論説委員の発言だ(『世界』7月号)。トランプ米大統領の「原理」は「トレード(貿易)」にあると認識し、そこから発言と行動を判断すればいい。分かりやすい言葉で言えば「ゼニの論理」である。「朝鮮半島の非核化」プロセスもその視点から見ればいいだろう。

 トランプ大統領が語ったように、北朝鮮の非核化の費用について、日本は韓国とともにその負担をすべきかどうか。安倍晋三首相は6月16日のテレビ番組で「日本の立場は明確」「かかる費用については、核の脅威がなくなることによって平和の恩恵をかぶる日本などが負担するのは当然」と語っている。

 私の結論を先に述べておけば「総論反対」である。トランプ大統領が「米国は朝鮮半島から遠く離れているから負担しない」と主張するのは全く理由になっていない。英投資顧問会社、ユライゾンSLJ・キャピタルの試算では「北朝鮮の非核化」には10年間で約2兆ドル(約220兆円)かかるという。

 北朝鮮の非核化をめぐる歴史を振り返ってみれば、その論理は破綻する。2002年9月17日に行われた日朝首脳会談で「日朝平壌宣言」が合意される。その内容を具体化したのが米、中、露、韓国、北朝鮮、日本の枠組みから成る「6カ国協議」であった。

 2007年2月8日から北京で開催されていた六者会合(第5回会合第3セッション)は、同月13日に「共同声明履行のための初期段階の措置」を採択する。北朝鮮が「60日以内に実施する『初期段階の措置』」として、次の合意がなされた。

(1)寧辺(ニョンビョン)にある再処理施設を含む核施設を、最終的に放棄することを目的として活動停止(shut down)および封印(seal)する
(2)全ての必要な監視および検証を行うために、国際原子力機関(IAEA)要員の復帰を求める
(3)使用済み燃料棒から抽出したプルトニウムを含む、全ての核計画の一覧表作りについて、5カ国と協議する

 この計画が実現しなかったことは、すでに歴史が証明している。

 問題は、今回の米朝合意で確認された「段階別、同時行動原則を順守する」ことである。今後の米朝実務者協議では「朝鮮半島の非核化」プロセスが具体化されていく。
共同声明に署名する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とトランプ米大統領=2018年6月12日、シンガポール(朝鮮中央通信=朝鮮通信)
共同声明に署名する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とトランプ米大統領=2018年6月12日、シンガポール(朝鮮中央通信=朝鮮通信)
 07年2月の合意では、さらに課題が示されていた。非核化への「初期段階の措置」とセットで合意されたのが「緊急エネルギー支援」である。具体的には「重油5万トンに相当する緊急エネルギー支援の開始」だ。これに米、中、韓、露が実施したが、日本は「拉致問題を含む日朝関係の現状を踏まえて」参加しなかった。

 そして同時に、日本と北朝鮮は「日朝平壌宣言に従って、不幸な過去を清算し懸案事項を解決することを基礎として、国交を正常化するための協議を開始する」ことも合意された。この「懸案事項」には拉致問題も含まれている。さらに「朝鮮半島の非核化」のための作業部会も設置され、「初期段階の次の段階における措置」では、北朝鮮が「全ての核計画の完全な申告の提出および全ての既存核施設の無能力化などを行う」ことまで合意されていたのである。