中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト)

 6月12日に行われたトランプ大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の米朝首脳会談から1カ月が経過したが、この内容をめぐって様々な分析と評価が行われている。その中でも多くの専門家が、会談の最大の「勝者」は金委員長であると考えているようだ。なぜなら北朝鮮は、アメリカの歴代政権が拒んできた米朝2カ国会談を実現させたからだ。

 そして両首脳が調印した共同声明には、北朝鮮の非核化と引き換えに北朝鮮の安全を保障する文言が盛り込まれていた。北朝鮮にとって最大の目的は、アメリカによる「体制保証」である。一方で、北朝鮮の人権抑圧に触れられることはなかった。

 逆にトランプ大統領は、金委員長の独裁政治を容認しているかのような発言を行っている。要は、金委員長は労せずして、いくつかの目的を達成したのだ。帰国した金委員長は、自らがトランプ大統領と対等な立場であることを国民に示し、自らの権威を高めることに成功したといえよう。

 また、共同声明に盛り込まれた北朝鮮の非核化については、具体的なスケジュールや査定方法に関する言及はなかった。アメリカの多くのメディアは、「具体的な内容がない」とこぞって批判を加えた。

 会談後の記者会見で、この点について質問されたトランプ大統領は、時間がなく詳細な議論ができなかったことを認めた。その上で、ポンぺオ国務長官とボルトン安全保障担当大統領補佐官を平壌に派遣し、北朝鮮当局と非核化に関する具体策について協議することで補う意向を示した。実際、7月6日にポンペオ氏は平壌を訪問したが、目立った成果は出ていない。

 また、トランプ大統領は共同声明のほかに、重要な発言をいくつか行っている。一つは、米韓軍事演習の中止だ。これは北朝鮮が常にアメリカに要求してきたものである。また、中国政府は、金委員長に対してトランプ大統領に米韓共同軍事演習の中止を求めるように要求したことを認めている。
2018年4月、ホワイトハウスでブリーフィングを受けるトランプ米大統領(左)とボルトン大統領補佐官(ロイター=共同)
2018年4月、ホワイトハウスでブリーフィングを受けるトランプ米大統領(左)とボルトン大統領補佐官(ロイター=共同)
 そもそもアメリカの歴代大統領は北朝鮮のあらゆる要求を拒否してきた。それが一転して、トランプ大統領は米韓共同軍事演習中止も受け入れたのである。トランプ大統領は、中止の理由としてコストがかかりすぎることを挙げている。