そしてこの決定をめぐっては、マティス国防長官が国防総省と事前協議をしていたことを明らかにしており、トランプ大統領のスタンドプレーではないことは明白だ。だが、この中止は安全保障関係の専門家は一様に北朝鮮に対する抑止力の低下につながると批判的な評価をしている。

 また、多くの人を驚かせたのは、トランプ大統領が韓国から米軍の撤退もあり得ることを示唆したことだ。これも、多くの安全保障問題の専門家が米韓軍事同盟の根本が揺らぐとして、批判的なコメントを加えている。

 さらに、北朝鮮の非核化は合意したが、共同声明でも、記者会見の中でも北朝鮮が保有する短距離、中距離のミサイル処理に関する言及がなかったことも重視すべきだ。北朝鮮はミサイルとエンジン実験用地を閉鎖することに合意しているが、中短距離ミサイル問題は放置されたままだ。仮に北朝鮮が非核化されても、武装解除されるわけではない。

 そして、非核化が「完全かつ不可逆的、証明可能な方法」で査察をどう行うのかに関しても何の合意もない。期待された朝鮮戦争終結宣言も行われず、重要な問題はすべて今後行われる両国政府の事務協議に委ねられている。

 さらに、記者会見では、日本に関わる重要な発言もあった。それは非核化に伴う費用負担問題である。トランプ大統領は、非核化を実現するために必要な経費については日本や韓国などの隣国が負担すべきだと明言した。

 軍縮問題の専門家によれば、非核化に伴う費用は少なくとも200億ドル(日本円で2兆円を超える)とされ、実現するためには数年、場合によっては10年かかる可能性があるという。ちなみに、北朝鮮は現在、20~80個の核弾頭を保有しているとみられ、非核化費用の総額はさらに拡大する可能性もある。
2018年6月、米ワシントンへ出発する安倍首相と昭恵夫人=羽田空港
2018年6月、米ワシントンへ出発する安倍首相と昭恵夫人=羽田空港
 こうした動きに対して、安倍晋三首相は早々と国際原子力機関(IAEA)による非核化の査察を条件に、日本が費用を負担する準備があることを明らかにした。まだ何も具体的に決まっていない段階での発言としては理解に苦しむ人もいるだろう。

 安倍首相の意向については、解釈によっては、米朝首脳会談の過程で日本は埒外(らちがい)に置かれていたため、非核化費用を分担する準備があると発言することで、日本が当事者としての立場を主張することができると考えたのかもしれない。