藤江直人(ノンフィクションライター)

 最後になって、選手以外の存在が主役の座を奪い取ってしまった。フランス代表の20年ぶり2度目の戴冠ともに、約1カ月に及ぶ熱戦に幕を下ろしたワールドカップ・ロシア大会。日本時間16日未明に行われたクロアチア代表との決勝戦は、後味の悪さを引きずらせる試合内容となった。

 フランスが先制し、クロアチアが追いつく展開で迎えた前半34分に問題のシーンは訪れた。フランスが得た右コーナーキック。FWアントワーヌ・グリーズマン(スペイン、アトレティコ・マドリード)が利き足の左足をインスイングで振り抜き、低い弾道のボールをニアサイドへ供給する。

 飛び込んできたのはMFブレイズ・マチュイディ(伊、ユベントス)。しかし、必死に伸ばした頭にはヒットせず、背後でマチュイディをブロックしていたFWイヴァン・ペリシッチ(伊、インテル・ミラノ)の体に当たってゴールラインを割った。

 再びフランスのコーナーキックかと思われた直後に、事態が急変する。開幕戦でも笛を吹いたアルゼンチン人のネストル・ピタナ主審に対して、マチュイディをはじめとするフランスの選手たちが、ペリシッチの左手に当たっていたと一斉にアピールを開始した。

 国際サッカー連盟(FIFA)は今大会から、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)を初めてワールドカップの舞台で導入している。首都モスクワにオペレーションルームを設置し、誤審の可能性のあるプレーがあった場合、オペレーションルームから主審に連絡が入る。

 主審はそれを受け入れるか、あるいは試合を一時中断させた上で、ピッチ外に設置されたモニターで問題のシーンの映像をチェックする。主審側からオペレーションルームへ連絡を入れることもできるが、チーム側からのアピールは認められない。

 もちろん、ピッチ上のすべてのプレーが対象になるわけではない。サッカーで最も大事な試合の流れを断ち切らないためにも、ロシア大会では下記の4つに限定された。

(1)ゴールおよびゴールにつながる攻撃
(2)PK判定およびPKにつながる攻撃
(3)一発退場
(4)処分対象の選手が間違っている場合


 しかし、決勝という大舞台で、勝敗の行方を左右しかねない判定となるだけに、これまでのVAR判定よりも時間を要した。オペレーションルームとの交信を終えたピタナ主審が両手で四角を描き、VAR判定に入ることを告げるまでに約1分間かかった。
フランス―クロアチア前半。クロアチアのペリシッチ(左から2人目)がCKを手に当て、VARでハンドの判定、PKを与える=2018年7月16日、モスクワ(共同)
フランス―クロアチア前半。クロアチアのペリシッチ(左から2人目)がCKを手に当て、VARでハンドの判定、PKを与える=2018年7月16日、モスクワ(共同)
 加えて、ピタナ主審は念入りにモニターをチェックする。一度ピッチに戻りかけたが、さらなる確証を得たかったのか。あるいは、一度下した判定への自信が揺らいだのか。再びモニターの前に戻り、件(くだん)のシーンをスロー映像で再確認した上でフランスにPKを与えた。

 ここまででさらに1分以上を要し、納得がいかないクロアチアの選手たちによる抗議が1分半以上も続いた。結局、ハンドリングと判定されたペリシッチのプレーからグリーズマンが冷静沈着にPKを決め、フランスに勝ち越し点をもたらすまでに4分近くもの時間が割かれたことになる。