しかも、この判定が世界中で物議を醸した。あらためて言うまでもなく、ボールを手や腕で触った場合がハンドリングの対象となる。ただ、すべてが反則となるわけではない。判定には(1)意図的に触ったか否か(2)当たった時の手の位置(3)当たった時の距離――が基準となる。

 映像を確認すれば、ボールは確かにペリシッチの左手に当たっている。ただ、ヘディングシュートを放とうとしたマチュイディをブロックしようとジャンプしたペリシッチのプレーには、(1)で問われる意図的なハンドリングの跡は感じられない。

 ジャンプしている間に体勢を整えるため、手を下に伸ばす動作の(2)にも不自然さは伝わってこない。さらにマチュイディのシュートミスは想定外の事態であり、至近距離から急にボールがすり抜けてきた形となった(3)の状況から言えば、とっさに左手を引っ込めることはほぼ不可能となる。

 ゆえにハンドリングには当たらないとして、批判の対象となっているわけだが、さらに残念なのはピタナ主審が映像をスローで再確認した行為だ。VARはあくまでも主審の判定を補助する立場とされてきたが、件の場面ではピタナ主審がVARを頼っているように映ってしまったからだ。

 決勝戦を含めて、ロシア大会で下されたPK判定数は「29」を数えた。従来の最高記録は1990年のイタリア大会、1998年のフランス大会、そして2002年の日韓共催大会の「18」だったから、ワールドカップの記録を大幅に塗り替えたことになる。

 言うまでもなくVAR判定が大きく影響していて、約3分の1に当たる「10」がVAR判定の末にPKが与えられた回数となる。VAR判定でPKが取り消されたケースも含めて、映像という疑いようのない証拠をその目で見た主審が、潔く誤審を受け入れた結果がPK判定数を激増させた。
F組の韓国対ドイツ戦で要求されたVAR =2018年6月27日、カザン(ロイター)
F組の韓国対ドイツ戦で要求されたVAR =2018年6月27日、カザン(ロイター)
 実はサッカーのルールはFIFAではなく、国際サッカー評議会(IFAB)という団体によって管理されている。そして、テニスやバレーボールの世界三大大会、ラグビーのワールドカップなどで採用されているビデオ判定制度に対して、IFABは長く慎重な姿勢を貫いてきた。

 他の競技と比べてルール改正へのスピード感が著しく乏しいと映る理由は、IFABが「サッカーの判定は人間が行うものであり、審判団のミスも含めてサッカーという試合が成り立つ」という考え方に強くこだわってきたからに他ならない。

 そうした歴史の中で、今も語り継がれるアルゼンチン代表の英雄、ディエゴ・マラドーナがハンドリングで決めた「神の手ゴール」が生まれた。しかし、「ボックス・トゥ・ボックス」(攻守にわたって走る中盤の選手)のスピードが桁違いに増している現代サッカーにおいては、審判団にかかる負担は計り知れないほど増大している。