頑なだったIFABが軟化したのは2012年7月。ハイスピードカメラや磁気センサーを駆使し、ボールがゴールラインを完全に超えたか否かを瞬時に判定するゴールラインテクノロジー(GLT)と、4人で構成されてきた審判団へさらに2人を加える追加副審(AAR)を特別会議で承認した。

 GLTはブラジル大会に続いてロシア大会でも採用されたが、対象がゴール判定だけに限られる。両方のゴールライン付近に2人の副審を配置し、ペナルティーエリア内におけるさまざまな事象に対する判定の精度を向上させるAARは、さらにマンパワーを増さなければいけない。

 2016年2月に就任したジャンニ・インファンティーノ会長の下で、FIFAはさらなるテクノロジーの導入に積極的に動いた。その結果としてIFABは同年3月に開催した年次総会で、2018年3月までの2年間をVARのテスト期間とすることを決めた。

 テスト期間を今年3月までに区切ったのも、ロシア大会での正式導入を見越していいたからに他ならない。VARが試合をスムーズに進行させることへの妨げにならないと、確信を抱いていたのだろう。インファンティーノ会長は早い段階で、VARに対してこう言及している。

 「来るロシア大会が、ビデオ判定が審判の判定を改善する最初のワールドカップとなることを願っている」
記者会見に臨むサッカー日本代表の吉田麻也=2018年6月23日、ロシア・エカテリンブルク(撮影・中井誠)
記者会見に臨むサッカー日本代表の吉田麻也=2018年6月23日、ロシア・エカテリンブルク(撮影・中井誠)
 審判の判定だけでなく選手たち、特に守備陣の意識をいい意味で高めたと言っていい。VARが試験導入された昨年11月のブラジル代表との国際親善試合で、VAR判定の末にPKを献上している日本代表のDF吉田麻也(英、サウサンプトン)も、開幕前には自らを律するようにこう話していた。

 「ディフェンダーとしては、非常にやりづらくなると思います。ペナルティーエリア内で相手のユニフォームを引っ張る、引っ張らないというのを、一番気をつけなければいけない」

 相手の腕などをつかむ行為を含めて、ゴール前の密集地帯における競り合いでこれまでは半ば黙認されてきた感のあるプレーが、テクノロジーの目によって正確に映し出される。必然的に競技力の向上が促され、攻める側のシミュレーションも減るなど、フェアプレーも徹底されるようになった意味でもVARが果たした役割は大きい。