懸念されたのは、VAR判定で試合が中断した影響で、それまでの流れやリズムが変わることだった。ただ、ちょっと待てば正しい判定が下される、という考え方が徹底されていたのだろう。サッカーそのものの魅力がスポイルされた、というケースはなかったと言っていい。

 アディショナルタイムが増えるケースも数多く招いた。例えば0-0のまま進んだドイツ代表と韓国代表がグループFの最終戦では、当初は6分間が表示された後半のアディショナルタイムが、その間にVAR判定が行われた関係で9分間という異例の長さに変更されている。

 しかも、そのVAR判定で一度はオフサイドで取り消されたDFキム・ヨングォン(中国、広州恒大)のゴールが認められ、さらにはFWソン・フンミン(英、トッテナム・ホットスパー)も追加点をマーク。まさかの展開の末に、前回王者がグループリーグで姿を消す想定外のドラマも生み出した。

 アディショナルタイムを含めた最後の10分間の攻防が面白さを増した点にも、VARの存在が影響を与えていると言っていい。計64試合で生まれた169ゴールは、1998年のフランス大会及び前回ブラジル大会の171ゴールに次ぐ歴代3位の多さだった。

 ゴールラッシュは開幕から36試合連続でどちらかのチームがゴールを決めるという、もうひとつのワールドカップ新記録をも生み出している。従来の記録は1954年のスイス大会における26試合連続で、実に64年ぶりに更新されたことになる。

 しかも、37試合目となった、フランスとデンマーク代表によるグループCの最終戦が、今大会における唯一のスコアレスドローになった。前者はすでに決勝トーナメントを決めていて、後者は引き分けで2位が決まる状況での激突とあって、申し合わせたかのように無気力な試合展開となった。
フランス―クロアチア前半。VARでペリシッチ(右端)のハンドでPKの判定に、主審に詰め寄るクロアチアイレブン=2018年7月16日、モスクワ(共同)
フランス―クロアチア前半。VARでペリシッチ(右端)のハンドでPKの判定に、主審に詰め寄るクロアチアイレブン=2018年7月16日、モスクワ(共同) 
 ゴールシーンが増えたことは、スタンドで観戦しているファンだけでなく、テレビ越しに見ている世界中のファンにもポジティブな効果を与える。決勝トーナメントに入ってハイレベルの試合も増えてきた中で、VAR判定でPKが与えられたケースも決勝戦の前半38分まで訪れなかった。

 それだけに、ある意味で決勝戦の魅力をスポイルしてしまった感のある、世界中から誤審と批判されたPK判定は画竜点睛を欠いてしまったと言わざるを得ない。必要以上に長い中断と助言以上のものをVARから得たと思わせた点でも、残念に思えてならない。

 ミスの撲滅が徹底される世の中全体の流れを考えれば、VARはサッカー界でますます必要不可欠な制度となっていくだろう。だからこそ、IFABが今もうたっている、「サッカーの判定は人間が行うもの」という大前提が損なわれないような運用方法が求められていくはずだ。