政治的進歩を支えているキリスト者たちは、軍事独裁政権と呼ばれた時代に、民主化闘争のために命を張って戦った人々である、という共通点があります。彼らは多くの保守系キリスト教が体制側に立っているのに対して、弱きものの立場に立ってキリスト教の精神を具現化していくんだと、独裁政治に対抗したのです。中でもカトリックで構成された「正義具現司祭団」というグループが中心的な役割を果たしました。

 そして民主化運動が成功し政権交代が果たされた後、金大中(キム・デジュン)、廬武鉉大統領の時には、民主化運動をした神父や牧師たちが政権のブレーンになっていきました。その牧師や神父は政府の中枢部に入って行きブレーンとなっていきました。特に南北関係の核心的なポストに、神父や神学者が入っていったわけです。

 韓国政界は、表向きにはあまりキリスト教の存在はわからないでしょうが、国家の決定的なところにキリスト教徒たちが多数入っているのが現実です。

 日本のキリスト教徒の人口比率は、1%に満たないと言われています。一方、韓国のキリスト教徒はカトリックやプロテスタントを併せて俗に30%ほどと推測されます。最近は韓国でもキリスト者人口は減ってきていますが、それでも日本とは大きく違いますよね。

 すぐお隣の国にも関わらず、なぜ韓国でキリスト教徒が多く、日本では少ないのか。それは、韓国において、本来結びつくはずのないナショナリズムとキリスト教が結びついたことが大きな要因の一つだと、私は見ています。

 ナショナリズムとキリスト教の結びつきを象徴する出来事として、「3・1独立運動」をみてみましょう。日本の植民地支配に抵抗して独立を願う人たちが立ち上がり、宣言書が読まれ、デモ行進が行われました。この宣言に民族代表33人が名を連ねたのですが、全員が宗教的指導者でした。
日本統治下の時代のキリスト教の会議記録とセムナン教会のメンバーリスト=2018年4月5日、韓国・ソウル(中田真弥撮影)
日本統治下の時代のキリスト教の会議記録とセムナン教会のメンバーリスト=2018年4月5日、韓国・ソウル(中田真弥撮影)
 その宗教の内訳をみると、キリスト教指導者が半分以上を占めている。これは注目に値すると思います。日本でキリスト教といえば、むしろ日本を超えた「世界」のことについて訴えているイメージが強いのではないでしょうか。日本のナショナリズムを鼓舞する人の中に、キリスト教徒たちはほとんど目につかないですよね。

 韓国では、政治的保守・右翼とキリスト教が結びつくことが多く、それが韓国でキリスト教徒の多い要因ではないかとする見方があります。でも、私の牧師としての立場からすれば、本来ナショナリズムとキリスト教の教えは結びつかないものですし、むしろキリスト教はナショナリズムを克服していくべきものです。

 なぜなら、キリスト教では、神の前ではみな平等であると教えるからです。それが基本的人権の思想につながっていくわけですが、理由はそれだけではありません。キリスト教が世界に広がる過程も関係しています。

 キリスト教国家が他の発展途上の地域、あるいは非文明的な地域を植民地化しようと入っていくときに、宗教も一緒に入って広められていった歴史があります。入ってこられた側としては、もちろん好意的に受け入れる人たちもいたことでしょうが、当然反発する人たちもいるわけですね。