李相哲(龍谷大教授)

 朴槿恵(パク・クネ)前大統領を誕生させる契機をつくったのが、カトリックの神父だった事実は日本ではあまり知られていない。その神父とは、カトリック「キリスト聖心伝教修道会」司祭の朴昌一(パク・チャンイル)氏だ。

 朴槿恵政権の国政運営に介入した罪で逮捕され、現在裁判を受ける身となった崔順実(チェ・スンシル)氏のハンターを自任し、一躍世間の注目を浴びた「共に民主党」所属の安民錫(アン・ミンソク)議員は当時のことを著書『終わらない戦争』(ウェズダムハウス)の冒頭にこう記している。

2014年1月15日早朝の(朴神父からかかってきた)電話が大韓民国の運命を揺るがすとは誰が知っただろうか

 朴神父の電話を受けて安議員は初めて「崔順実」の名前を知った。「崔順実という名前は初めて聞きますが」という安議員の問いに、朴神父は「では崔太敏牧師(崔順実の父)を知るか」と聞き返したという。この2人は後に、メディアがロシアのラスプーチンのように描写し、朴槿恵前大統領との関係を特筆した人物である。

 朴槿恵前大統領が失脚することになった最大の原因は、このような「怪しい一家」との関係が取り沙汰され、操られていたと韓国国民が信じたからだ。朴神父と安議員のやりとりがあったその日から約3年後の2016年12月、朴槿恵大統領(当時)は国会で弾劾され、翌年3月に罷免される。安議員によれば、朴神父は朴槿恵降ろしに決定的な役割を果たしたという。
実刑判決を受け、ソウル中央地裁を出る崔順実被告(中央)=2018年2月
実刑判決を受け、ソウル中央地裁を出る崔順実被告(中央)=2018年2月
 では、朴神父とは何者なのか。1996年から北朝鮮助け運動を始め、2000年1月に平壌に足を踏み入れて以来、今まで十数回も北朝鮮を往来している。03年にNGO(非政府組織)団体「平和3000」を立ち上げ、自ら運営委員長に就任し北朝鮮を物心両面で支援してきた人物だ。

 「平和3000」とは、1人が1日100ウォンを節約し、月3000ウォンずつ献金して北朝鮮を助けよという活動を意味している。朴神父は集めたお金を北朝鮮のスポーツ施設の再建事業に使ったり、北朝鮮のスポーツ選手にユニフォームを送ったりし、金正恩朝鮮労働党委員長肝いりの政策として推し進めた芝生づくり事業を支援した。

 朴神父は「平和運動家」として北朝鮮支援活動を行う一方、韓国国内では「天主教(カトリック)正義具現全国司祭団(以下「司祭団」)」統一委員会委員長を務める。朴神父が統一委員長を務める司祭団は、1974年9月に結成した組織。当初から政治色が強い宗教系社会運動団体としてスタートした。

 創立集会ではロウソクを手に持つ神父らが、朴正熙(パク・チョンヒ)政権(1963~79年)の独裁政治を糾弾する「時局宣言」を発表して注目浴びたが、これが韓国現代史上初めてのロウソクデモだったといわれる。朴槿恵前大統領を弾劾に追い込んだ2016年暮れのロウソクデモの伝統をつくったのは「司祭団」だったのだ。