崔碩栄(ジャーナリスト)

 私が留学生として来日した99年、私にとって日本のテレビや新聞はとても興味深い日本語教材だった。母国韓国で目にしていた、韓国マスコミにより「フィルタリングされたニュース」ではなく、日本で接する新鮮なニュースは日本語のみに留まらず、日本の文化、習慣、考え方を学ぶことのできる優れた教科書だったのだ。

 日本のテレビや新聞報道をみて驚いたことの中の一つが「安全に対する意識」だった。小さい異音が聞こえるだけで電車を止めたり、機械の点検を一日で何回も行っているなどといった報道は、日本人には「当たり前」に思えることかもしれないが、外国から来た私の目には「そこまでやる必要があるか?」、「過剰反応では?」と思えてしまうことが多かったのだ。しかし、そのような意識が今日の日本を築き上げた要因の一つであろうという考えに至り、肯定的に見るようになった。

 もう一つ強烈な印象を残したのは 「夏の甲子園」だ。元々野球好きだったこともあるが、当時は、「韓国の至宝」宣銅烈選手が中日の抑えとして活躍していたし、「怪物」松坂大輔がプロにデビューし野球界全体が盛り上がっていた時期でもあった。私は日本野球にすっかり夢中になっていた。そうして、日本野球への関心は自然に高校野球にも広がったのだが、私を驚かせたのは「夏の甲子園」だ。

 夏の甲子園大会を見ながら印象に残ったのは、日焼けした選手たちの顔、汗、涙、仲間、歓喜、試合終了のサイレン。その一つ一つが「青春ドラマ」のワンシーンだった。しかし、30度を超え、時には35度を超える状況でグラウンドに立つ選手たちには違和感を覚えるしかない。安全にうるさい日本で、なぜあれを誰も止めないのか――。

 特に、最近のように連日猛暑が続き、熱中症、 日射病の危険度が高い日の真昼間に、である。事実、先週ニュースを見ていると、日本全国の学校、被災地、それ以外の一般家庭でも熱中症の患者が発生し運ばれたというニュースがいくつも伝えられていた。

 テレビでは、繰り返し熱中症の危険に言及し、学校の体育や野外活動などに対する警鐘を鳴らしている。だが夏の甲子園に対しては「憂慮」するコメントが出る程度に留まり、積極的に中止、延期、ドーム球場での開催、北海道など涼しい地域での開催などを求める声はほとんど見受けられない。

 100年を迎える「伝統」、そして「聖地」として甲子園が持つ象徴性の大きさを思えば、簡単に中止や甲子園以外での開催を口にすることはできないのかもしれない。かといって、その重みを十分に理解しているとは言い難い(と見られがちな)私のような外国人が、こういった「伝統」が関わる問題について横から口を出すことも正直憚られる。

 だが、個人的にSNSで意見を披露してみたところ、意外と共感を示してくれた方が多かったので、「空気を読めない」のではなく、「空気を読まなくてもいい」外国人として、勇気を出して声をあげてみることにした。

 結論からいうと、甲子園だけではなく、全てのスポーツ大会において猛暑に関する基準と対策を設けるべきだと思う。気象状況によって主催側や審判が中止や延期の判断を下せるように基準を設けるべきということだ。
板門店の軍事境界線で警備する韓国軍兵士(ゲッティイメージズ)
板門店の軍事境界線で警備する韓国軍兵士(ゲッティイメージズ)
 韓国軍の場合、気温が32度以上になると指揮官の判断により不可欠な兵力を除いて、激しい訓練や移動など野外活動を自粛する。軍任務の特徴として運動量の多い行動が多く、また、医療施設と離れた場所での活動が多いことを考慮した苦肉の策である。韓国軍の基準が「甘い」と思う人もいるかもしれないが、それでも起きるのが「事故」だ。