向谷匡史(作家、ジャーナリスト)

 リモコン片手にザッピングしていた私のカミさんが、全国高校野球の予選試合の中継に目を留める、こうつぶやいた。

 「この猛暑に、何で試合をやらせるのかしらねぇ」

 「夏は高校球児の甲子園」と、思いこんでいた私は目からウロコ(そうだ、何で熱中症の危険をおかしてまで真夏にやるのか)。こんな素朴な疑問が、脳裡(のうり)をよぎったのである。

 私は空手道場もやっており、稽古は夕方から週3回ある。大人を対象とした夜の部はともかく、子供の稽古時間はまだまだ猛暑とあって、稽古が始まる2時間前から2台のエアコンと4台の扇風機をフル稼働。熱中症に神経をとがらせている。

 私が所用で外出しているときは、カミさんが先に道場に出かけてスイッチを入れる。熱中症に関心の高い彼女にしてみれば、「この猛暑になぜ?」という疑問はもっともということになるだろう。

 7月24日のニュースでは、1週間に熱中症の症状で救急搬送された人数が全国で2万2647人にのぼり、このうち65人が死亡と報じていた。

 集計を始めた2008年以降では、いずれも最多になったと伝え、「命にかかわる危険な暑さ」、「熱中症に厳重な警戒を」、「ためらうことなく冷房を入れてください」と、例のフレーズをアナウンサーが紋切り口調で繰り返していた。

 なにせプールに浸かっていてさえ熱中症になるのだから、文字どおり「命にかかわる危険な暑さ」である。メディアがこぞって注意喚起するのは、その責務からして当然である。

 ところが、この炎天下に「夏の甲子園」が開催される。信じられないことではないか。
水分を補給する履正社高の選手ら=2018年7月25日午前、大阪府吹田市の万博球場(岡田茂撮影)
水分を補給する履正社高の選手ら=2018年7月25日午前、大阪府吹田市の万博球場(岡田茂撮影)
 炎天下で行う試合そのものもさることながら、主催者たる朝日新聞が熱中症の危険を紙面で喚起しつつ、その一方で夏の甲子園を開催するという神経が、私には信じられないのである。

 たとえて言えば、熱心に街の美化を主張する人間が、鼻紙をポイ捨てするのと同じではないのか。言行の一致せざることを世間では「口舌の徒」と呼ぶ。

 「ためらうことなく冷房を入れてください」という呼びかけがテレビで流れるたびに、「電気代はただじゃないわよ」と、カミさんは主婦感覚で口をとがらせていた。「冷房を入れろ、電気代は自分持ち」と言われたのでは、余計なお世話と腹立たしくもなるだろう。

 ところが九州電力は熱中症予防のため、高齢世帯の電気料金割り引きに踏み切った。「猛暑が続く中で、迅速に対応したいと導入した。冷房や扇風機を積極的に使っていただき、熱中症を予防してもらいたい」とコメントしており、これを「言行一致」と言う。