奥山真司(地政学者、戦略学者)

 現在はいわゆる「グローバル化」の時代であるが、それに大きく関係してくる移民・難民の受け入れ問題について書かせていただきたい。

 まず、先に結論だけいえば、移民や難民の受け入れが成功するかどうかは、歴史的に見ても「価値観や生活レベル、それに文化の違う人々をどこまで社会に溶け込ませることができるか」という点にかかっているということだ。

 「グローバル化」とは、国境を越えた「ヒト・モノ・カネ」の動きの活発化であるといわれている。「モノ」と「カネ」の動きは、自由貿易の促進という形で比較的受け入れやすいものと考えられているが、最も厄介なものが、「ヒト」の移動に関する移民や難民の問題である。

 本稿では、古代ローマ帝国と、その末裔(まつえい)である現代のドイツが直面している深刻な問題を振り返ることで、この厄介な移民・難民問題の核心を考えるための、いくつかのヒントを提供していきたい。

 古代ローマ帝国の崩壊というのは英国の歴史家、エドワード・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』をはじめとして、近代の欧州では実にさまざまな知識人たちが論じてきたテーマの一つである。その最大の要因の一つとして、次々に侵入してきた難民の処理を誤ったことにあるのは間違いない。

 もちろんローマ帝国自体は、当時から世界最大の多民族・多文化社会である。無数の移民を同化したり、他民族のいる場所を占領したりすることによって数世紀にわたって発展してきた国であった。端的にいえば、当時のローマは現在の欧米のように、移民や難民に寛大だったのである。
画像:Getty Images
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 だが、今から1700年ほど前の西暦300年ごろから、状況がおかしくなる。ユーラシア大陸の内部、中央アジアから移動してきたフン族の侵入により、東欧を支配していたゴート族をはじめとする部族たちが追い出され、「難民」としてローマ帝国との国境沿いに大量に集結したからである。その数は、当時としても驚異的な20万人にのぼるといわれている。

 それまでのローマ帝国であれば、異文化の「野蛮人たち」を同化させるために、その部族をまとまらせず、小集団に分割して抵抗してこないようにしてきた。いわゆる「分断統治」である。