だが、見方を変えれば、自分が決して危険な人物ではないと必死かつ巧妙にアピールしているとも評せる。過去の支持者の一部保守層に対し「戦後レジームからの脱却を決して忘れていない」と旗を立てつつ、本気で戦う気はない。タカ派を気取り「戦後政治の総決算」を掲げた中曽根康弘が5年の長期政権を築いた手法の焼き直しだ。「保守など時々ガス抜きしておけばよい」とするリアリズムである。

 もう一つ政策を挙げれば、防衛費増額がある。マスコミは右も左も「戦後最高の防衛費増額」と書き立てる。右は称揚し、左は懸念を示す。しかし、安倍政権は毎年0・8%ずつ上げているにすぎない。

 そして見事にGDP0・92~0・95%枠を守っている。言うなれば、「三木武夫の劣化コピー」である。当時は自民党史上最大のリベラル政治家と言われる三木内閣ほどの防衛努力もしていないのに自らをタカ派と演出しているのも、政権維持の知恵であろうか。

 選挙は創価学会、予算は財務省主計局、法律は内閣法制局。この三つに依存している限り、「一強」なのである。「戦後レジームからの脱却」など捨ててしまえば、安泰である。

 第四に、国際環境が幸運に左右していることである。日本の歴代内閣は、アメリカ大統領に左右されてきた。アメリカの民主党政権は、反日の傾向が強い。逆に共和党政権は、「番犬」としての役割を求め、種々の圧力を加えてくる傾向がある。

 だが、前任のバラク・オバマは反日の姿勢が極めて弱かった。ウッドロー・ウィルソン以来、最も反日的ではないアメリカ民主党政権だった。代わったドナルド・トランプは、戦後初めて日本に対等の同盟国になる道を差し伸べてきた。極めて幸運である。

 トランプは第二次大戦後の秩序を本気でひっくり返そうとしている。中国が台頭する世界の中で、アメリカの国益を追求する。その同盟国として日本を選んだ。そして、大統領選挙の最中から、東アジア情勢の緊張を鑑みて日本に防衛努力を求めてきた。
共同記者会見で、手を差し出す安倍首相(左)とトランプ米大統領=2018年6月
共同記者会見で、手を差し出す安倍首相(左)とトランプ米大統領=2018年6月
 では、この状況に安倍首相はどうしたか。ここでも政策で無理をしない、である。「間違ってもトランプの口車に乗って自主防衛や核武装だの、するものか」と決意しているかのようである。世界中のエスタブリッシュメントとけんかしているトランプに本気で付き合う気はない。

 また、核武装や自主防衛など、法制局・主計局・創価学会を敵に回す。考えたくもない。それならば、世界中で嫌われているトランプを各国の首脳と取り持てば、面倒な努力をしなくても恩が売れる。「トランプ内閣の外務大臣」である。

 世の中には安倍首相を「トランプの参謀総長」と誇張する御仁もいるようだが、わが国がいつ軍事努力をしたのか。