大川充夫(競馬実況アナウンサー)

 大井競馬所属の的場文男騎手が、地方競馬最多7151勝の日本記録に王手をかけた。私はレースを実況するアナウンサーとして、的場騎手が記録を目指す姿を見てきた。

 前人未到の領域。ここに至るまでに積み重ねてきた莫大な数の勝ち星。それをはるかに上回る、残念ながら勝ちにはつながらなかった、しかし的場騎手が魂を込めて騎乗してきたレースの数々。それらを思うとき、的場騎手が一つ勝って記録に近づくたびに、実況する私も緊張を増し、惜しくも2着に敗れたりすれば、それはそれでまた心を揺さぶられた。

 見ているだけ、実況しているだけの自分が平静でいられないのだ。的場騎手本人は、いったいどれほどのプレッシャーと戦ってきたことだろう。

 記録との闘いというのはおそろしく厳しいものであるらしく、的場騎手が新記録樹立を目指す中、記録まで残り10勝程度になってから、2着ばかりが続いた時期があった。

 有力馬に乗って2着。人気薄の穴馬に乗っても2着。

 あとほんの少し前にいれば、勝ち星を手にできるというのに、それができない。スムーズに勝ち星を増やせない。

 見ていても歯がゆかったが、もちろん本人の悔しさはわれわれの比ではなかったろう。競馬とはシビアなもので、1着以外は全て負け。つまりひとつのレースでたった一頭・一人の勝者と、その十倍以上の敗者が生まれる競技である。
2018年6月、第64回東京ダービーを制したハセノパイロ(中央)、クリスタルシルバー(緑帽)は首差届かず、鞍上の的場文男騎手は10度目の2着とまたも悲願達成はならなかった(大貫師男撮影)
2018年6月、第64回東京ダービーを制したハセノパイロ(中央)、クリスタルシルバー(緑帽)は首差届かず、鞍上の的場文男騎手は10度目の2着とまたも悲願達成はならなかった(大貫師男撮影)
 どんなに惜しい2着であっても、そして何度それを積み重ねても、勝ったことにはならない。2着続きの苦しい時期を、的場文男騎手は見事に乗り切った。達成直前にはケガで長く休むことにもなったが、これも乗り切った。

 こうした苦節を乗り越え、的場騎手は日本競馬史上、最も多く勝った騎手となるのである。的場騎手の持つ記録は、通算勝利数にとどまらない。