的場騎手より30歳近く年下の、現在はトップジョッキーとなっているある騎手は、

 「的場さんの追い方って、魂に訴えかけてくるよね。…あれで走りやすいかどうかは、馬に聞いてみないとわからないけど」

 と言い、廃止になった宇都宮競馬からオーストラリアに渡って騎手として活躍し、今は引退した元ジョッキーは、

 「オーストラリアで騎手仲間から、『日本で一番うまい騎手は誰だ?』って聞かれて、武豊の映像を見せたんですよ。そしたら、『これが日本一か?』って、反応薄いんだ。それじゃあっていうんで、的場さんを見せたら、『こいつはグレイトだよ! 日本一じゃない、世界一だ!』だって」

 こういう話を、本当に広い範囲の人が「ネタ」として持っている。的場騎手本人はと言うと、そうしてネタにされても気にする様子はない。

 ネタにされるのは騎乗法だけでなく、むしろ人柄や行動に関するものの方が多い。

 自分で主催した自分の祝賀パーティーなのに、途中で「早く終わろう」と言い出して周囲を慌てさせたこと、自分のことを特集したテレビ番組が放映される時間に、競馬場内のテレビのチャンネルを片っ端から合わせて回ったなどなど。

 的場文男騎手の話を、みんなしたがるのだ。まるで自慢話でもするように。

 自分は的場騎手の、こんなネタを知っているんだぞ、ということを、実に広い範囲の人々が得意になって話すのだ。そして聞く者もそれを喜んで聞く。
2017年7月、地方競馬通算7000勝の記念祝賀会で、家族から贈られた花束に笑顔を見せる的場文男騎手=東京・港区のホテル
2017年7月、地方競馬通算7000勝の記念祝賀会で、家族から贈られた花束に笑顔を見せる的場文男騎手=東京・港区のホテル
 それはちょうど、長嶋茂雄さんの言動をネタとして披露すると大いに喜ばれ、話した人も得意顔になる、あの現象によく似ている。競馬界における的場文男騎手は、長嶋茂雄さん級に偉大なプレーヤーであり、長嶋茂雄さん的に広くみんなに愛されているキャラクターなのだ。

 空前にして、恐らく絶後となるであろう大記録を打ち立てる競馬界のレジェンド、的場文男騎手の真の偉大さは、実はそこにあると思う。