小俣一平(武蔵野大学客員教授)

 こんなことを書くと笑われるか呆れられてしまいそうだが、世の65歳以上の老人で、元TOKIOメンバーの山口達也さんはともかく、同じジャニーズ事務所のアイドルグループ、NEWSのメンバー、小山慶一郎さんが何者なのかスラスラ出てくる人は、相当な芸能通ではなかろうか。

 山口さんは、バラエティー番組『ザ!鉄腕!DASH!!』(日本テレビ系)の人気コーナー「DASH島」での無人島開拓で何度か見たことがある。芸能人とは思えないほど、腰の軽い、気さくな性格が番組の随所に見られて、好印象を持っていたから、女子高生への強制わいせつ事件を聞いて、いささか驚いた。

 ただ、山口さんが日テレ朝の情報番組『ZIP!』でメーンパーソナリティーをしていたことは、チャンネルを動かしていて、スーツにネクタイという意外な姿だったことから記憶にはある。だからと言って、別に彼の「ニュース情報番組」を見たいと思ったことはない。

 ましてや、後者のアイドルは顔も名前も全く知らなかった。つまり、私にとっては、どの人が芸能人ニュースキャスターなのかを識別する術はほとんどない。プロであろうが芸能人であろうが、ニュースの伝え方、捌(さば)き方、コメント力で判断するしかないのである。

 だから、「芸能人がキャスターをやることについて」というテーマ自体にも、私は違和感を覚える。つまり、「芸能人」というくくりに、発言者や識者の意識の中に「芸能人ごときが」という見下した臭いを嗅ぎ取ってしまうからである。

 それは、私自身が差別や排除に過敏なのかもしれない。世に言う立派なジャーナリストから見たら、「シロウトが芸能のノリでやって欲しくない」という思いがあるのだろう。

 今回のことに限らず、討論番組や情報番組で芸能人による政治や社会の問題についての発言に関して、よく思い出したのは、学生時代に読んだ吉本隆明さんの『情況』(河出書房)の「芸能の論理」だった。私の記憶に鮮明に残っているくだりは次の箇所だ。

 ふだん政治的冗談や芸人的冗談を売りものにしているような男が、『まじめ』くさった顔をしてなんかいうときは、嘘をついているにきまっているのだ。

文芸評論家の吉本隆明さん=1999年6月撮影
文芸評論家の吉本隆明さん=1999年6月撮影
 私には、この呪縛があるためか、長きにわたって芸能人を売り物にしたニュースや情報番組は、意識することなくスルーしてきたのかもしれない。しかし、<嘘をついているにきまっている>という指摘には、違和感があった。もちろん、吉本さん流の辛辣な表現で、「プロの世界は生齧りのヤツで無く、その道のプロに任せろ」という思いがあったからだとも推察できる。

 確かに、現役の新聞記者や放送記者、そのOBの中にも、「芸能人がニュースキャスターやコメンテーターをやるなんて…」と眉をひそめる向きも少なくない。2002、3年のころだったか、作家の本田靖春さんと千葉県流山市内の病院横の川沿いで、2人してたばこをくゆらせながら、四方山(よもやま)話をしたことがあった。かくいう本田さんも、芸能人やタレントが「コメンテーターもどき」をすることに対して、かなり厳しく批判していた。